読書メモ

・「できる人の教え方 〜みんなが分かる!
(安河内 哲也:著 、中経出版 \1,300) : 2008.03.01

内容と感想:
 
「できる人のxx」という本が多い。それだけ読者を惹き付けるテーマなのだろうし、 タイトルにすることで売れ行きもきっと伸びるのだろう。 本書はベストセラー「できる人の勉強法」に続く、同じ著者による本。
 教員免許を持たない著者はこれを現場発の指導法・教授法といい、これを社会に還元するためにと書いた。本人は「教育界のブラックジャック」とおどける。 教える仕事に就く人や、組織で部下の指導に当たる立場の人などには参考になるだろう。 私も教育者ではないが職場で他人に教える立場になることも多い。ちゃんと「教え方」を勉強したことはなく、 最近は流行のコーチングなどにも興味がある。多くの人はちゃんと「教え方」を教わることは少ないのではないか?
 教えることが自分のためになる、自分の理解度も上がる、というのはよく言われる。 勉強しただけでは血肉とならず、実践することで身に付くのにも似ている。 インプットだけでは駄目で、アウトプットすることで自分だけでなく、他人にも良い影響を与える。 また、教えることで相手からの信頼値も上がる、という。 子供や後輩・部下が成長するのを見る喜び、「やり方」を次の世代に残していける喜び、はそう意識しなくても感じている人は多いのではないか。 自分が生きていた「証拠」として残るとも著者は書いている。
 教えることの究極の目的は自分で勉強できる力を育てること、自主性を育てること、というように教える側は相手に常に べったり付いて教えてやることは不可能である。忙しい人はなおさらだ。 人材育成が難しい、研修などの効果が見えない、とのビジネスパーソンの声がよく聞かれるが、 人を育てるのは難しい。勝手に育ってくれれば一番だが、そんなうまい話はない。
 本書はすぐに使えそうなノウハウが詰まっている。上手に教えられなくても、相手が自主的に勉強するようなきっかけ作りが出来れば 教えることの目的は達成できたことになる。そのためにも勉強への動機付けが必要だ。 モチベーション(やる気)の源は3つあると書かれている。楽しいこと、将来の目標の達成、認められること。 これらを刺激していくことが教える側には必要だそうだ。
 著者は本書に書かれているような「教える技術」を生徒達から教わったという。 大学で教育心理も教育原理も中途半端にしか勉強できなかったというが、予備校などの現場で工夫し、現場のニーズに応えながら学んだ指導法だけに 成果も出ているようだ。それが評価されているからこそ本書のような本が出るのだろう。現場でお試しあれ。

○印象的な言葉
・教えることはコミュニケーション。情報交換。
・教師たるもの五者たれ:学者(自ら学ぶ姿勢)、役者(話し方)、易者(相手の気持ちをサポート)、芸者(楽しませる)、医者(相手に合った指導)
・信念を失わない
・相手の「満足度X伸び率」を高める
・量は少なく、因果関係を示す
・演習と確認の繰り返し、その場で覚える。双方向の関係。受講者が参加する時間を作る。
・音読、体を使う、ゲーム感覚、グループ活動
・安心感と危機感の波
・配布資料には「大事ではないこと」を書く。穴埋め形式。
・波及力:伝えようとする力
・教えることはサービス。教えている時間は相手のもの。与えられた時間の質を高める。時間対効果。「省きたい」という気持ちと闘う
・「学ぶ」(勉強)とは「思考訓練と暗記」
・シンプリフィケーション:教えることを厳選。100の内、ベスト10まで絞込み、それを完璧に覚えさせ、残りの90の攻略のきっかけとする
・論理ブロック:話の論理的な組み立て。エッセイやスピーチにも使える。
・スパイラル方式:最初は浅く、どんどん深くしていく
・集中力はせいぜい20分。「20分に1回リセット」のリズム
・目的、有用性を教える
・貫禄ある叱り方:激しい言葉を使いながらも、平常心を保つ。信頼関係。愛情を込めて一喝。
・追いつけそうで追いつけないくらいの距離感
・教える相手のレベルまで自分を下げる、近づける
・解答を与えず、「やり方」を教える
・サイレント・マジョリティー、ノイジー・マイノリティー
・中途半端に「できる人」は伸びにくく、教えにくい。プライドが高い。本人も伸びないことをストレスに感じているはず。プライドをくじいてやる。
・教える側の予習=暗記。気持ちに余裕。聞き手の様子も観察できる。アドリブもきく。
・メモを読むだけの話は心に響かない。人は心から出ている言葉に反応する
・大人数を前にする場合は少し馴れ馴れしいくらいでいい
・距離がありすぎると共感しづらい
・絶対に覚えて欲しい知識だけをその場でみっちり教える。足りないところはテキストや配布物で補う

-目次-
はじめに プロローグ なぜ、人に教えなければならないのか
第1章 「教える」とは、どういうことか? 第2章 相手にわかってもらう教え方
第3章 相手のやる気を引き出す教え方
第4章 相手のタイプにあわせた教え方
第5章 多人数を前にしたときの教え方
エピローグ 20年間、教えつづけてわかったこと