読書メモ

・「無言館ノオト 〜戦没画学生へのレクイエム
(窪島誠一郎:著、集英社新書 \760) : 2004.10.11

内容と感想:
 
先日、「無言館を訪ねて」という画集を観た。著者は無言館の館主である。画集の方はあくまでも画集であるから、作品の方を前面に出しているのは当然で、裏話は最小限に抑えられていた。本書は画集では伝えられない無言館設立の裏話が書かれている。
 無言館は先の大戦で亡くなった美術学校の学生または卒業生の作品を展示している日本に類を見るない性格の民間の美術館である。「はじめに」にも書かれているが、本書を書いた理由として、1997年に同美術館を設立して4年目、自分の足元を見つめ直そうとした点にある。設立した本人がその存在に対して「一片のフの落ちなさがある」、「未整理な、中途半端な気持ち」があるようである。遺族や賛同者たちの支援があると同時に、一方では偽善行為と同じに見る批判的な目もあるようである。無言館に備えられた感想文ノートには来館者が綴った言葉が収められているそうだが、その中には肯定的なだけでなく、同館の存在に否定的な意見もある。それらは単なる観光客の感想といった十分に無言館の趣旨が理解されていないと思われるものが多いらしい。そういった方は本書を読んでもらって、もう一度鑑賞に行くとよいだろう(私はまだ観ていない)。
 著者が分析しているように、展示品を観た感想は世代によって異なるようである。ほぼ同じ年齢で命を落とした画学生の絵を現代の同世代の若者たちは純粋な目で捉える。同世代でなければ感じ取れないメッセージが伝わるようである。変な先入観なしに純粋に絵を鑑賞すればいいんだと目を開かされた思い(ちょっと訪れにくいな、とこれまで感じていた)。また、故人と生前、一緒に過ごした関係者による感想文などは涙なくしては読めない。
 同館は民間美術館だけに今後の課題が山積している。遺族の高齢化に伴い、遺品をどうにかしたいと考えている遺族も多いそうである。それら全てを預かって、全てを展示するのは不可能である。しかし著者が現在、最も心配なのは「戦場で死んだ画学生のことなど誰も見返らない時代がすぐそこまできている」ことだ。そういう時代になれば上田くんだりまでわざわざ絵を観に来る人も減るだろう。同館はお先真っ暗である。
 館主自身の迷いや悩みが伝わってくる本であるが、一上田市民としての私はこんな形でもいいから支援の意志を示すことにしよう。

-目次-
第一章 「無言館」縁起(ことのおこり)
第二章 「無言館」の画家たち
第三章 「無言館」懺悔録
第四章 「無言館」その後
第五章 「無言館」への手紙

更新日: 04/10/17