読書メモ

・「信長と天皇 〜中世的権威に挑む覇王
(今谷明:著、\600、講談社現代新書) : 2004.02.16

内容と感想:
 
あとがきで著者が述懐しているように、本書ではあの信長も他の中世的戦国大名となんら変わらない武士だと扱き下ろされてしまっている。しかしそれは著者の真意ではなく、「信長を偉大な政治家と規定した上で」という前書きがあっての結論である。視点を天皇の立場から捉え直したという点で面白い。
 中世的権威を徹底して否定したはずの信長であったが、天皇の権威だけは圧伏できなかった。彼にとって「天皇は不可欠の装置」であったから、たとえ本能寺の変で彼が道半ばで倒れず、天下一統を成し遂げたとしても、天皇を廃するようなことにはならなかったであろうと、と著者はいう。この考えは、氏とは逆の考えを提唱する説が存在することへの反論である。歴史のifを論じても、あくまで想像でのお話し。そうなったかも知れないし、ならなかったかも知れない。そう言ってしまえば実も蓋もなくなるが、それを抜きにしても内容は興味深い。いかに、信長が天皇の権威に縋って生き延びていたかが分かる。しかしその権威に縋りながらも、煙たい存在だとは常に彼は感じていたことであろう。いつかは・・、と考えていても仕方がないとも思えるし、そうした彼の考えに気付き、手遅れになる前に信長を抹殺しようと考えた勢力があったとしても全く不思議ではない。表向きは勤皇であっても、本音と建前を使い分けながら必死で中世の幕引きという理想へ突っ走っていたのであろう。

-目次-
序章 上洛志向
第一章 入京直後の公武関係
第一章 勅命講和
第一章 天皇の平和
第一章 神格化の挫折
終章 本能寺の変なかりせば

 最高権威に肉薄した点で、著者は信長を足利義満と比較している。氏によれば「義満政権の方がはるかに安定感があり、(略)カリスマとして安定していた」と評価が高い。天皇になろうとした将軍とも言われる義満であったが、まかりなりにも足利政権が15代も続いたという事実もあってポイントが高くなるのであろう。
 一方、信長を利用し、自分も利用された形の当時の天皇、正親(おおぎ)町天皇は信長より17才も年長の老獪な人物であったらしい。時の権力者と対決し、屈さなかった点を著者は「後白河法皇と匹敵する」と評している。

更新日: 04/02/22