読書メモ

・「なぜ「いい人」は心を病むのか
(町沢静夫:著、\1,350、PHP研究所) : 2004.02.07

内容と感想:
 
ごく世間一般で周囲からも「いい人」と形容される人達は大勢いると思う。願わくば全人類みな「いい人」ならよいのだが、精神科医の著者によれば、そういったごく普通の「いい人」こそ心を病む可能性のある予備軍だそうである。「いい人」にもいろいろあると思うが、表紙帯にあるような「ノーと言えない、怒りを表せない、謙虚、完全癖、気配り、倫理的、義務感・使命感が強い、面倒見がよい、自己卑下、等」といった性格の人はこれまで日本人の美徳として捉えられて来たはずである(自分の価値観もこれと同じである)。しかし、それが現代の激しい競争化・国際化社会の中では逆効果に働き、肉体的・精神的にストレスを生み出し、行き過ぎると病気にも発展するのだと言う。
 本書では、いわゆる「いい人」は失敗ばかりの人生を自己愛的に憐れみ、拗ねているだけだと厳しい。他人との衝突を避けるあまり「やさしい人」になる。「いい人」も弱い人間。自分の弱さに甘んじていると鬱病や不安障害にもつながりかねない。まず自分の弱さを知り、弱いなりに生きる力、技術、戦略を学べ、と説く。
 人生は辛い、厳しい。壁にぶち当たって自ら命を絶つ人もいる。「いい人」でいようとするがために自分を見失い、自分の本音も分からなくなる。生きていくための現実は厳しい。
 序章にあるように本当の生き甲斐を得るため、よりよい人生とするために、自分の良心に従い、できるだけ創造的に、できるだけ多く楽しみ、学び、考えて生きていくことが必要だ。
 著者が理想とする「いい人」像はやさしい「いい人」ではなく「強いやさしさをもった人」。本当の福祉国家はストレスのない国ではなく、ほどよいストレスのある国、というのも興味深い。

-目次-
序章 「いい人」であることの不安と自信
第一章 「やさしさ」と「弱さ」の精神分析
第二章 心の病にかかりやすい性格
第三章 「こころの専門医」を訪ねる
第四章 傷つきたくない「いい子」の危機
第五章 「いい人」よりも「必要な人」となるために

 近年はストレスに弱い人が多くなっていると言う。昔、CMにあった「みんな悩んで大きくなった」ではないが、悩みを悩み抜く力がなくなっていることが精神障害を多くしている原因らしい。自分で悩み抜くことも必要だし、援助を必要としているが自分で気付いていない人、援助を得られない人には援助の手が必要だ。
 衣食足りた現代日本、一つに満足しても、また別の悩みが人々を襲う。人間の業(ごう)であろう。自分の子供を虐待する親が増えているという。「我が子を抱きしめよう」なるCMが流れる昨今。日本は大丈夫だろうか?

更新日: 04/02/08