読書メモ

・「ナバホへの旅 たましいの風景
(河合隼雄:著、朝日新聞社 \1,200) : 2004.07.17

内容と感想:
 
ナバホはアメリカ先住民(アメリカ・インディアン)の一部族であり、相当な独立性を持って生活をしている人々である(ナバホ・ネーションという国が存在するらしい)。位置的には北米の中西部で、グランド・キャニオンのすぐ近く。河合氏が彼らに興味を持ったのは心理療法家として、メディスンマンと呼ばれる、いわゆるシャーマンにインタビューし、何かヒントを得られると考えたからだ。シャーマンというと私には日本の降霊をする巫女のようなイメージだが、ある意味では合っているようだ。
 ナバホの人々はホッジョー(調和)を大切にするようで、それは日本の「和」に近いもののようである。また宗教的には日本のように多神教であり、自然のあらゆるものに神が宿ると信じている。こう見ると日本人と共通点があるなと感じるのだが、ナバホの人達が日本人よりも信仰が篤いと著者が感じているのは、彼らの生活自体が宗教性を帯びたものであるという点だ。
 メディスンマンは先輩について何年、何十年もかけて学んで、ようやくなれるものだそうで、降霊をするように「聖なる人」を呼び出すことができるそうだ。その精神状態は変性意識状態というもので、訓練によって、そうなれるそうである。著者はその様子を禅僧が坐禅をしているのと同じといっている。メディスンマンが心の病を癒す場合、共同幻想を必要とする。メディスンマンと同じ共同体に暮らしているからこそ成り立つようである。そのため、ナバホの外の人達の治療には有効ではないようである。

-目次-
1 なぜナバホなのか
2 「亀の島」へようこそ
3 ナバホ国の人たち
4 メディスンマンの夫妻
5 シャーマニズムと心理療法
6 シャーマニズムと西洋医学の対話
7 伝統的医療を公的施設で
8 美と均衡 - マンダラ的世界観
9 先住民の遺跡
10 スウェット・ロッジ、そして日本のこと

<印象的な言葉>
・ナバホの人々は彼らが住んでいる大地(北米大陸)を「亀の島」(turtle island)と呼ぶ
・ナバホの人々はホーガンという八角形の小屋に住んでいた。小屋の中央には火があり、日本の囲炉裏のような役割。最近は米国人と同じような家に住む人が多い。生活と宗教が密着しているため、生活様式の変化は宗教の崩壊を招く。
・ナバホは母系家族で名字は母系のものを名乗る
・ナバホとは侵略者であるスペイン人がそう呼んでいただけで、彼ら自身は「ディネエ」と呼んでいる
・心の病は母なる大地のスピリット(霊)とのコンタクトを忘れてしまった結果。スピリットとの関係回復をはかればよい。スピリットの存在に気付く必要がある。
・ナバホの人達の中には米国の中の先住民という位置付けの問題から、アルコール依存症となる人が多い。一般の米国人から見れば彼らの生活は貧しいもののようである。依存症の治療には彼らのアイデンティティーを明らかにし、安心できる場を提供することが第一。
・キリスト教文化圏以外の文化圏において個人主義が強くなった場合、アイデンティティーや倫理の喪失につながり、問題が起き易い
・アメリカ先住民の知恵は老荘思想に近い
・ナバホ以前にも先住民が存在し、彼らはアナサジ文化というものをもっていた。立派な建造物の遺跡もある。しかし、彼らはそれを捨てて自然に帰っていった。
・「白人は法律によって罰せられない限り、自分を正しいと思っている」(ある先住民)
・「(アメリカの都市を見て)野蛮人の住処である。人間がまったく土地から切れている」(ユング)
・キリスト教徒は純粋に一神教なら、イスラム教徒と戦い続けるしかなくなってしまう。もう唯一の宗教が強力であり続けることはできなくなってくる。

更新日: 04/07/19