読書メモ

・「無言館を訪ねて 〜戦没画学生「祈りの絵」第U集
(窪島誠一郎:編、講談社 \1,456) : 2004.07.24

内容と感想:
 
無言館は長野県上田市古安曽にある信濃デッサン館の分館として1997年に設立された。編者は無言館の館主である。上田に移住してすぐに、名前だけは知ったのだが、近所にあるのにも関わらず、いまだ訪ねたことはない。初めはどういう施設かすら知らなかったし、名前からも想像できなかった。美術館だと知ったとしても、もともと美術館を訪ねるような趣味も持ち合わせてはいなかったし。従って正直、興味も沸かなかった。それが変わったのは、無言館の趣旨を知ってからだ。
 たまたまTVで(「新日曜美術館」?「美の巨人たち」?)、無言館で展示されている美術品が放送されたのを目にした。更には時期を同じくして日経新聞の日曜版の「美の美」面でも取り上げられた。
本画集より以前に「無言館 〜戦没画学生「祈りの絵」」が発刊されている。TVや新聞で取り上げられていたのが本画集に掲載されているものかどうかははっきり記憶していない。
 副題にあるように、無言館には先の大戦で戦死した学生たちが残した作品が収蔵されている。作者は若くして命を落とし、満たされない創作意欲を抱えたまま、数少ない作品を残して去っていった。その無念さは本人にしか分からないだろう。戦争さえなければ、もっと多くの作品を世に出し、中には成功する者もあったのかも知れない。美術界だけに限らず、多くの才能が戦争で失われた。
 私はこのTV番組の内容に衝撃を受け涙した。しかし、どうしても無言館に足が向かなかった。悪く言えば、そこにある作品の裏話が余計な情報として入ってくると、それは単なる美術品ではなくなるからだ。これは言い訳に過ぎない。もともと美術鑑賞をするような人間ではないから、もし無言館を訪ねるとしたら、純粋に美を楽しみに行くというより、作者たちの鎮魂に行くことになるだろう。きっと涙なくしてはいられないだろう。またそんな場面で自分をうまくコントロール出来るだろうか?それを想像すると恥ずかしいようで、何か怖いのである。
 本画集には無言館を訪ねた人々が自由に書き込むことができる感想文ノートから、彼らのメッセージが転載されている。作者の出征前の写真なども掲載されている。また今年も、終戦記念日がやってくるが、多くの人に本画集のメッセージに耳を傾けて欲しい。
 うまく心の整理がついたら訪ねてみたい。

更新日: 04/07/25