読書メモ

・「呼吸入門
(齋藤孝:著、角川書店 \1,200) : 2004.07.10

内容と感想:
 
"あとがき"にあるように、本書の「呼吸」への著者の懸ける思いは深い。彼のこれまでの研究の軸は呼吸にあったことを初めて知った。生物は普通、当たり前のように呼吸をする。呼吸を止めたときが死である。著者が呼吸法に懸けた思いは、長い不遇の時代をも支えたようである。彼の著作には<腰肚文化>という言葉がよく使われる。彼の関心事のひとつであるが、この日本の腰肚文化といものも呼吸力が支えていた。であるから、ここでいう呼吸とは生理的な生物的な活動としての呼吸ではなく、文化として、精神的な意味合いで捉えている。
 しっかりした呼吸法が疲れにくく、集中力を持続させる。脳を活性化させる。臍下丹田で腹式呼吸することで精神的に落ち着ける。力が発揮できる。
 呼吸というと専門用語的で味気ない印象だが、これに替わる””という言葉がある。本書中では息の方が多用されていると思う。七章にも書かれているように、「息を合わせる」、「息の長い」など、日本語には息が付く言葉があり、息に対する関心が昔からあった。

-目次-
第一章 なぜ「息」を考えるのか
第二章 呼吸力とは何か
第三章 息と心の関係
第四章 日本は息の文化だった
第五章 教育の基盤は息である
第六章 危険な呼吸法・安全な呼吸法
第七章 息を感じて生きる

 著書は呼吸法の研究のために様々な団体を渡り歩いて調べたらしい。六章にもあるように、呼吸法を誤ると危険な場合もある。またオウムのように、何か超能力が発揮できるかのような神秘性を求めるのも間違いだという。また、中国の気功でいうところの”気”にも距離を置いている。
 著者の研究成果、最終的に辿り着いた齋藤式呼吸法「三・二・十五」には、次の3つのコンセプトがある。「誰でもその場で教えられる。誰が教えても同じようにできる。誰がやっても同じ効果が得られる。」何よりも彼が目指しているには教育現場で使えることである。3秒吸って、2秒溜めて、15秒かけて吐く。本書の真髄はただ一点、これだけだが、現場に取り入れてその効果を実感しているようである。
 呼吸は生きていく上での基本中の基本である。無意識でやっているときには気付かないが、案外、自分の息を意識することは日常でもあるのではないか。スポーツをやる人は当然、呼吸を意識せざるを得ないし、仕事でも緊張状態が続くと息苦しいと感じる。
 「呼吸力は、そのまま生きる力に直結します」。洒落ではないが「生きる」とは「息る」ことでもあるのだろう。

更新日: 04/07/11