読書メモ

・「こころの声を聴く 河合隼雄対話集
(河合隼雄ほか:著、新潮文庫 \476) : 2004.05.16

内容と感想:
 
河合氏が様々な分野で活躍する方々、10人と本について語り合った対話集(富岡多恵子氏だけは往復書簡の形になっている)。
 対話相手の著書を話題にしたものや河合氏の本を取り上げたりと、いろいろだが、それぞれの方が実に深いお話しをしているのが勉強になる。対話形式だから読み易い。その読み易さゆえに、巻末で解説を書いているテッド・グーセン氏は対談集の読み方の危険性にも触れている。また、こういった対談と言う形式は西洋では人気がないらしい。
 中には名前すら知らなかった方もいる。特に多田富雄氏は免疫学の権威であるようだが、名前も知らなかったが一番印象に残るお話しをされていた。免疫の話しはまさに目から鱗が落ちるほど新鮮であった。河合氏も何か感じるところが大きかったようで実に面白そうに聞き入っていた。スーパーシステムという概念は生命系だけでなく、政治経済・文化その他のあらゆるシステムに新たな思想、価値観をもたらすかもしれない。「免疫の意味論」を読んでみたくなった。生命とは実にうまく出来ているものだと感心する。
 村上春樹との対談は別の一冊の本になっているが、こちらは対談の場が異なっているし(実はどちらも米国で行われている)、話題も重複していない。
 本書を読んで思ったのは、きっと齋藤孝氏に言わせれば、よい対談というのは両者の脳ミソが交じり合う感覚が聴く側や読者に感じられるもの、だろう。お互いがお互いを表に引き出し、単に自分の経験や自慢話に終わらず、何か新しいものを生み出すようなクリエイティブな場。きっと対談ごとに対話した二人は何かを得て別れていったことだろうと想像できる。
 カウンセリングの場合は全然違うのかも知れないが、河合氏という人は実に話しが上手い。話すのも上手いが聴くのも上手い。

-目次-
1 魂のリアリズム - 山田太一
2 境界を越えた世界 - 安部公房
3 常識・知恵・こころ - 谷川俊太郎
4 魂には形がある - 白洲正子
5 老いる幸福 - 沢村貞子
6 「王の挽歌」の底を流れるもの - 遠藤周作
7 自己・エイズ・男と女 - 多田富雄
8 「性別という神話」について - 富岡多恵子
9 現代の物語とは何か - 村上春樹
10 子供の成長、そして本 - 毛利子来

更新日: 04/05/24