読書メモ

・「日本人とアイデンティティ
(河合隼雄:著、\980、講談社+α文庫) : 2004.03.06

内容と感想:
 
日本もグローバルな社会の一員として大きな役割を担っている。広く世界の人々と交流していかねばならなくなって、国際化が叫ばれて久しい。本書のお題は”日本人の”アイデンティティではなく、”日本人と”となっているところが微妙。つまり日本人のアイデンティティ、日本人としての自覚みたいなものを解き明かすような趣旨のものとは違う。著者は欧米へ留学したこともあり、西欧人と日本人との自我のあり方の差を感じている。日本人の自我は欧米人のように「個」として確立されていないそうである。日本人は自他との相互関連の中で生きているので、「我を殺す」ことも多く、それが欧米人に誤解される原因にもなる。ただ、それが常に悪いとは言えない。有効な場合もあるから、日本人はこれまでそうやって生きてきたのだ。
 本書は心理療法家としての著者の体験からの考えや感じたことをエッセイにして発表していたものをまとめた本である。

-目次-
序章 いま日本人に問われていること
第一章 日本人の心の深み - 生き方をめぐる問題
第二章 子どもと大人の間 - 教育が直面している問題
第三章 もうひとつの心の国 - 魂をめぐる問題
第四章 心理療法家の目 - 社会が直面している問題

 これまで著者の本を読んできて、それらと重複した部分もあったりするが、印象に残った点を挙げると:
・たましいの汚染と児童文学
・コンプレックスを人間的成長への起爆力、導き手として利用する
・イデオロギーの終焉は理想と現実の乖離に幻滅したのが原因→ 無党派層の拡大
・子どもが読む昔話に原話からの安易な書き換えがある問題
・昔話の類話の多様性と人生の問題解決法の多様性
・「待て、而して、希望せよ」(モンテ・クリスト伯)と繰り返すのが私の職業
・柳田国男は直接「無意識」を語らないが、民俗学を通して人々の気持ちや挙動の背後にある「無意識」を追求していた →ユングとの違い
・適当に夢を見ないと人間はおかしくなる
・老人と子供は魂の国に近い →「あちらの世界」へ行く方か、来たばかりかの違い
・病跡学 → 病が創造性に関連することもある、創造の病。

更新日: 04/03/07