読書メモ

・「コンテンツビジネスのすべて 〜デジタル化で生まれた「商い」のしくみ
(野辺名豊:著、\838、PHPビジネスライブラリー) : 2004.02.11

内容と感想:
 
ここでいう「コンテンツ」とはインターネットで公開されたり取引されたりするデジタルな素材、商品である。例えばホームページを飾るイラストや、写真や音楽、映像、ニュースなどなど、デジタル化されていればそれは皆、デジタルコンテンツである。マニアの集まり的、実験的なインターネットから公共財として現在のネットは大きく存在が変化した。電子商取引やネットショッピングという言葉も出てきて、ネット上でビジネスを展開する機運はますます高まってきている。本書で取り上げているコンテンツは従来リアルな世界で流通してきた書籍や音楽CDを電子化したものである。これらをネット上のビジネスとして扱うことのメリットや課題・問題点を取材している。
 著者が主張しているのは、デジタル化のメリットを作成者と顧客をネットで直接結ぶことで、中間業者を廃し、両者がコスト削減を享受できるという一点に置いてはいけない、ということ。流通コストがゼロということはあり得ないのだ。無名なクリエイターなら尚更である。コンテンツが売れるためには名前を知ってもらわなければいけない。宣伝してくれる人や著作権を管理してくれる人、代金回収の仕組みなども必要だ。これら全てをクリエイター一人でやるのは無理な話で、どうしてもエージェンシー的、プロデューサー的な存在が必要になってくる。そういうニーズがある一方で、エージェンシーやプロデューサーは売れるコンテンツを見分ける目利きの能力が必要だ。ネット上で安心してクリエイターやアーティストが作品を制作、販売でき、収益を得られ、ユーザも安心して作品を購入できる仕組み作りにはまだビジネスの課題・チャンスがあるようである。
 デジタルコンテンツは「家電のようにマスに向けて売るのではなく、コアな層・コミュニティが相手である」というのは、このビジネスの本質を突いている。

-目次-
第1章 コンテンツビジネスとはなにか
第2章 出版業界に見る電子化の波
第3章 デジタルコンテンツビジネスの「法則」
第4章 コンテンツエージェンシーとコンテンツプロデューサー
第5章 著作権をめぐる攻防
第6章 コラボレーションの中で台頭する「理解者」
第7章 クリエイター側からのビジネス法則
第8章 音楽、映像、そしてモバイル

 出版されたのが2000年3月ということもあり、内容的にはやや古く感じられる。ダイアルアップ接続のスピードを上回るインフラとして、携帯電話やPHSの無線通信やCS放送などの衛星通信などを挙げていたりして、現在のADSLやCATV、光ケーブルなどの高速有線回線が出てこないのは、この業界の変化の速さに取材が十分に追いついていなかったものと弁護しておこう。
 しかし表紙裏のコメントにあるように、IT関連ビジネスの主役がWindowsを初めとするOSから、インターネット、そしてコンテンツへと移り変わるだろうという読みは間違ってはいないだろう。PCとそれらを結ぶネットワーク・インフラが整えば、次は収益源の目がその上で提供されるサービスへ向けられるのは当然であろう。中身がないインターネットではユーザはすぐに飽きて、愛想をつかすだろう。コンテンツをビジネスにするつもりなら真剣に売れるコンテンツを提供しなければいけない。個人が面白半分に公開しているような趣味の世界では金にはならない(中にはプロ顔負けのものもあるが)。質が求められる。狭い日本国内向けだけでなく、世界にも通用するようなコンテンツも必要だろう。
 ケータイの世界では着メロや待ち受け画像の配信をビジネスにして収益をあげている企業もある。最初はたかが着メロと思っていたが、何がビジネスになるか分からない時代である。

更新日: 04/02/14