読書メモ

・「CODE 〜インターネットの合法・違法・プライバシー
(Lawrence Lessig:著、山形浩生・柏木亮二:訳、翔泳社 \2,800) : 2004.10.03

内容と感想:
 
著者は米国スタンフォード大学でサイバースペースの法律を教えている。インターネットの世界は歴史も浅く、国境を越えた仮想的な世界を形作っているから、これまでになかったような問題も起きている。新しいその環境に合った法律も必要になってきている。
 本書で著者が一番言いたいのは、ネットの技術やビジネスが発達するに従い、それ自身によって、もともとネットにあった自由が失われる危険がある、ということだ。法律の専門家としてこの現実に我々はどう対処したらよいか具体例を多く挙げて、優しい語り口だが緻密に議論を重ねていく。
 題名の「CODE」というのはアーキテクチャとも言い換えていたりするが、インターネットを構成する様々なソフトウエアの基となる「ソースコード」から来ている。CODEがコンパイルされて、コンピュータやネット機器上で実際に動作するプログラムとなり、これらが互いに結びついてネットを形成する。我々が作り出したCODEが我々自身を規制し、住みにくい世界にしかねない、というのが著者の主張である。
 本文だけで450ページ弱の大部の本で、読み切るのに苦労した。途中で何度も投げ出した。
 結局、問題に対する正解のようなものは提示されないのだが、ネットというツールを使うことで、政府が如何に強力に市民を監視できるか、著作権がより強力に保護されるか、など我々の自由に関わる問題を鋭く指摘している。その上で、「なんでもビジネスに任せよう」的な放任だけでは反って、悪い方向に向かうだろうと著者は言う。著者の指摘どおり、今までのネットの成功は、そこに規制がなかったことである。しかし時代は変わった。それが強力なツールであるからこそ、我々が今まで体験したことのなかった自由の危機がある。一つの例ではネットの自由と匿名性を守りたいと思う人がいる。匿名性は犯罪の温床のように敵視するむきもあるが、匿名でなければ言えないこともある。言論の自由の危機だ。もう一つはソフトウエアの著作権問題。近年、オープンソースという哲学が台頭してきている。従来、ビジネスとしてのソフトウエアはCODEをクローズドにしてきた。著作権に保護されてきた。これは一企業には利益をもたらすが、公共の利益に反する。CODEを公開して、共有しよう、というのがオープンソースだ。一方で著作権を強化しようとする動きすらある。ネットは様々なデータをデジタル化し、簡単にコピーでき、しかも劣化しない。特に音楽や映像などのコンテンツをビジネスにするものにとっては脅威であり、うまく活かせばチャンスになるかも知れないという諸刃の剣である。過剰な著作権の強化は技術革新を阻害する。ネットがここまで成長したのもオープンだったからである。
 最終的に著者は我々に問う。このままでいいのかと。放って置いていいのかと。混乱するかも知れないが、規制を強化されるのが嫌なら、それなりの規制が必要だということだ。「意図的に不完全性を各種システムに導入しなきゃいけない」と言っている。我々は選択を迫られているのだ。
 また、ネットを越えた現実の問題も提起している。民主主義の危機である。自由な国アメリカと言われた、その国民である著者が現状の民主主義のありかたに疑問を抱いている。民主主義的な意思決定プロセスが機能していない、と言う。ネットの話はそれらの一つに過ぎないのだと。

-目次-
第一部 規制・制御できるということ
第二部 コードとその他規制するもの
第三部 アプリケーション
第四部 対応

更新日: 04/10/09