読書メモ

・「バカの壁
(養老孟司:著、新潮新書 \680) : 2004.07.18

内容と感想:
 
養老氏の本は甲野氏との対談集に続く2冊目。だいたい、養老さんという人の人柄が分かってきた。
 本書は昨年(2003年)のベストセラーの1つだったと思う。「バカの壁」という題は私には今ひとつピンと来なかった。一体それはどういう壁なのか?題名だけで中身が想像できてしまうのは、よいこともあれば悪いこともあるが、何だか分からないまま、先入観なしに読むというのも、本に新鮮な気持ちで向かえるというもの。
 人間すべてが理解できるほど高等な生き物ではない。理解し切れない、もうこれ以上は理解できないという壁にぶち当たる。それが本書でいう「バカの壁」である。理解にもいろいろあるが、その壁を作っているのは自分自身であり、個人個人の考え方である。だから人間同士であっても理解し合えないことがあり、悲劇的なことが起こったりもする。
 この壁は最終的に一元論の問題にもつながっていく。キリスト教、ユダヤ教、イスラム教など一神教は一元論の宗教であり、その極端なのが原理主義者である。彼らがいかに危険な現代世界を構成していることか。養老氏に言わせれば、「一元論にはまれば、強固な壁の中に住むこと」になるが、壁の「向こう側のこと、自分と違う立場のことは見えなくなる。当然、話は通じなくなる」のだ。やはり脳や思考方法の面から見ても、宗教の問題は大きいと感じる。一神教は都市型宗教らしい。多神教は自然宗教であり、自然や住む土地を基盤とする強さ(直接的に食べ物を得られる強さ)がある。基盤のない都市の人間は弱い。そこにつけ込んだのが一神教であった。どうも多神教は原始的で、進化のない、文化の遅れた人々の宗教だと思われている。進化すると一神教に辿り着くとも考えられている。しかし、その結果どんな問題が起きているか、中東情勢を見れば明らかだろう。
 「一元論はやがて、長い時間をかけて崩壊する」とも言う。まさに今、矛盾が明らかになっているし、欧米人にも一元論的なものに対する疑問を持ち始めているし、仏教など東洋思想に新たな解を求め始めているとも聞く。
 結局、著者が言いたいのは「自分でよく考えろ。考えて行動しろ。実際に行動してみて、また考えろ」ということになるだろう。

-目次-
第一章 「バカの壁」とは何か
第二章 脳の中の係数
第三章 「個性を伸ばせ」という欺瞞
第四章 万物流転、情報不変
第五章 無意識・身体・共同体
第六章 バカの脳
第七章 教育の怪しさ
第八章 一元論を超えて

更新日: 04/07/25