読書メモ

・「自分の頭と身体で考える
(養老孟司+甲野善紀:著、PHP文庫 \514) : 2004.07.04

内容と感想:
 
古武術に学ぶ身体操法」の著者・甲野氏と、2003年のベストセラー「バカの壁」でも有名な養老先生の対談集(1999年)。「バカの壁」はまだ読んでいないが、NHKの人体の番組なんかでちらっと養老先生の言動を見たこと以外、情報をもたない。両者とも分野は違うが”身体”が専門である。専門家といっても狭い分野で自分の主張をぶつけ合うだけの対談にはなっていない(そんな対談なら本にもならないだろうが)。両者とも柔軟な発想の持ち主であり、常識を常識と思わず、建前論ではなく、物事の本質を見つめた本音をぶつけ合っている。ある意味で毒舌対談とも言えるが、品性のない対話にはなっていない。
 今、甲野氏の主張に耳を傾ける人が多くなっているのは、技術的な古武術の面そのものへの興味ではなく、彼の研究方法・発想に現状打破のヒントを見ているからではないか?巻頭に甲野氏が書いているように「価値観に転換が起こり、行き詰まりかけている社会にも新たな方向性が拓けてくるのではないか」と感じているのではないか?

-目次-
第一章 古武術と解剖学から世の中を見る
第二章 日本という村落共同体
第三章 自分の頭と身体で考える
第四章 一歩間合いをとって日本を見る
エピローグ 年齢を重ねて見えてくるもの

 <興味深い発言>
・東洋は同時並行的処理が、西洋よりも得意。漢字は見た瞬間に意味が分かる
・頭の固い方が生きやすい世の中。だから無限に規則が増殖している
・自分の身体を信用したらいい。頭より、よっぽどよく考えて出来ている。身体が自分の思い通りになると思うな。
・下腹丹田に支点を置くと、全身がうまく強調的に動くのではないか?各部の出力はわずかでも全体として非常に大きな力になるのではないか?
・美しく見える動きとは、極めて合理的な動きである
・日本は法治国家とは言えない。この国には憲法に書かれていない憲法がたくさんある。だから法律に優先する行動がとれる
・少数意見を抹殺せず、一番実質的なことを最優先する。人体をモデルにしたネットワーク作り
・判断基準は自分の美意識
・アリの集団で働いているのは2割、あとはウロウロしているだけ。皆が全員働き出すと何かまずいのかも知れない
・変わり身の早い日本人。熱しやすく冷めやすい。無意識化された伝統がバックボーンにあるから、変えられるところは平気で変えられる。世の中なんて一晩でコロッと変わる。
・最も反体制的なものが体制的になる。反体制を引っ繰り返すと体制になる。だから反体制も信用できない
・民主的な社会では人口減が生じる。民衆に権力がない社会は人口増を起こす。権力欲が関係する。
・公平な見方の人が、得意なものが出来ると片寄って全体が見えなくなるかも
・人間の価値の中では品格が重要。

更新日: 04/07/11