読書メモ

・「乾坤の夢」(上・中・下)
(津本陽・著、 \552, \590, \552、文春文庫) : 2002.12.22

内容と感想:
 
物語の主役は徳川家康。話は西暦1598年に太閤秀吉が死んだところから始まる。秀吉の死で豊臣政権に動揺が走る。このとき家康57歳。人生50年と言われていた時代である。ようやく自分にチャンスが巡ってきたと確信した彼は天下取りに残りの人生を賭ける。1616年に75歳で死ぬまでを描く。

上巻
・泗川 - 秀吉の悪政の一つとも言われる朝鮮出兵。秀吉の死を秘したまま全軍が撤退するまでが描かれる。
・眠り猫 - 豊臣政権の五大老の一人・家康は表向きは豊臣家に服従しながらも着々と天下取りの布石を打っていく。もう一人の大老・利家が死ぬと彼の横暴ぶりは誰の目にも明らかとなる。五奉行・石田三成を失脚させると、上洛しない上杉景勝討伐軍を率い会津に向かう。それは豊臣政権を転覆させるための秘策であった。
・関ヶ原・上 - 会津に向かったと知った三成が挙兵。まんまと誘いに乗った形の三成ら豊臣方の西軍と家康率いる東軍が関ヶ原で激突。西軍・小早川秀秋らの寝返りで東軍の勝利に終わる(1600年)。

中巻
・関ヶ原・下 - 戦後、西軍に加わった大名たちは改易や減封され、各地で多くの浪人が出現した。豊臣家に至っては摂津・河内・和泉のわずか三国の一大名に落ちぶれたが、家康は豊臣家を潰すまではしなかった。
・江戸 - 江戸を本城と決め、全国の大名を城普請に駆り出した。1603年には征夷大将軍に任ぜられるがわずか2年で将軍位を秀忠に譲り、大御所と称し院政を敷く。豊臣家を潰す方策をじっくりと練る。しかし一気に行動には移さない。
・駿府 - 1607年には駿府城に移る。1611年には成長した秀頼と面会する。関ヶ原から慎重に機会を覗っていた家康は73歳の1614年、ついに動く。秀頼が作らせた方広寺の梵鐘の銘文が家康を呪うものだと言いがかりをつけ、豊臣討滅を明らかにする。大坂城には真田幸村ら浪人衆が参集する。

下巻
・冬の陣 - 家康率いる東軍が大坂城を包囲。しかし西軍の士気も旺盛で、幸村らの奮闘もあって、大いに東軍を苦しめる。しかし連日の砲撃に怖気づいた淀君らが講和を望み、戦いは終結。その後、家康は大坂城の全ての濠を埋め立てさせてしまう。
・夏の陣 - 翌1615年、和睦の後も大坂城から浪人衆が立ち去る気配はなかった。再戦は必至の状況であった。しかし濠がない大坂城は裸城同然で篭城戦では勝ち目はない。幸村ら西軍は死に場所を求めて城を出て、決死の戦いを挑み散っていく。そして大坂城はついに落城。秀頼、淀君らは自害し、豊臣家はここに滅ぶ。
・遠行 - 翌1616年正月、徳川政権にとって豊臣家という最後の障害が取り除かれると、達成感で気が緩んだからか急に病の床に伏せる。病状は4月まで一進一退を続けたがついに息を引き取る。享年75歳であった。
 
 本書には当時の手紙や日記など多くの史料が引用され、当時の状況を鮮やかに蘇らせ、緊張感あるリアルな描写に結びついている。特に関ヶ原合戦前に自分の味方につけようと家康が多くの大名・小名とやりとりした多くの書状は、天下取りの執念を感じさせる。
 日を追って淡々とした語り口で物語は進められていくのだが、これまで読んだ(大した数ではないが)津本作品とは違った印象であった。信長・秀吉・家康の3人の内では地味なイメージであるが、戦国の世から徳川将軍家15代に及ぶ泰平の世の基礎を築けたのも苦労人・家康だからこそかも知れない。豊臣家討滅の企みも決して、事を急がなかった。世論や大名たちの心情を慎重に読みながら、自滅だけは避けた。
 津本氏が書いているように、家康の世にはもう骨のある大名や武将は絶滅してしまっていたのかも知れない。皆、異常な戦国という時代にすっかり嫌気がさしていたのかも知れないし、もう家康でいいや、という雰囲気だったのかも。そう思わせるほど抜けた存在に家康はなっていた。
 家康は敵対した多くの大名・小名と、関が原、大坂冬の陣、夏の陣と続く大規模な戦闘を重ねた。そして多くの日本人が殺し合った、現代からは想像も出来ない異常な時代が幕を閉じた。

 ところでつい先週、大河ドラマ「利家とまつ」の放送が終了した。利家の死の前後を描く最終回はあっさりとしたもの。継嗣・利長に家康暗殺の企てありと疑いをかけ、前田家を潰しにかかると、一時は家康と一戦交えるかとも思われたが、再び世に大乱を招くのをよしとせず、まつが家康の人質として江戸に向かうと一気に形勢は家康に傾き、時代は徳川政権の樹立へと流れていった。
 関が原合戦、大坂冬の陣、夏の陣を経て、人質生活から開放されたまつが、ねねやはるに再会し、思い出話に花を咲かせて幕を閉じる。既に未亡人となり剃髪した3人は、特に老けたメイクをするでもなく、若く美しかったのには違和感を覚える。まあドラマだから仕方がないが。

更新日: 02/12/23