読書メモ

・「ITRON/JTRONがわかる本
 〜 なるほどナットク!シリーズ
美崎薫:著、 \1,200、オーム社 : 2002.05.29

内容と感想:
 
家電や自動車など我々の身近に溢れるマイコン組込み機器たち。
 一般の人はそんなものは意識していないだろうが、それほど日常に入り込んで来ている。機能が高度化し、それに伴いマイコン制御にOSが必要になり、日本でTRONというプロジェクトが始まった。その成果がITRONであり、JTRONである。
 そんなこと知らなくても使えれば、動けば問題ないが、知りたがりにとっては気になると知りたくなるのが常。実のところTRONの名前こそ知ってはいたが、あまり気にかけていなかった。TRONWAVEなる雑誌を見かけることはあるが、それ以外に書籍としては見かけたことがなかった。本書はそんな状況で唯一見つけたもの。ほぼ文と図表が半々と言った、初心者向け解説本といったところでボリューム的に不満だったが、とりあえずこれしかないので読んでみた。

・ITRONとは・・乱暴に言えば、Windowsのようなもの。それだけでは役に立たないが、それがないと何もできないコンピュータの基本機能(最近のWindowsはそれだけでWebやmailなど大抵のことが出来てしまうが)。そのような機能をコストダウンなどのために限られた資源(部品)で実現できるように最適化されたOSである(こちらの場合は基本機能だけでなく、それぞれの製品に応じた機能も当然組み込んである)。電子レンジ・炊飯器などに組み込まれてしまうほど小さな部品で動かすので組込みOSと言われる。

・JTRONとは・・ITRONのリアルタイム性に加えて、Java言語というネットワークやグラフィカルユーザインターフェース(GUI)の構築などが得意な環境を載せることで高度な機能と操作性向上を狙ったもの。Javaプログラムが動くJavaVM(仮想マシン)はITRONの一つのタスクとして動く。ITRONの別のタスクやハードウエアの開発とは別の環境で並行で開発が出来るので効率がよいとされる。Java対応携帯電話にはこの技術が用いられているものも多い(株式会社アプリックスのJBlend はJTRON仕様を実装したもの)。

 こういう規格のことを考えるとすぐ思い浮かぶのはIETFなどでワーキンググループが作成してるインターネット標準。こちらは全世界的なプロジェクト群である。TRON は日本の得意な家電製造業などが参加して産学協同(社団法人トロン協会)で進めてきたという歴史上、ちょっとIETFのような団体とは異質なイメージがする(あくまでイメージ)。世界でのシェアを数字で表していただけると世界的な位置付けが分かる気がしたのだが。

■疑問、不満:
・オープンアーキテクチャではあるが、実装は様々なバージョンがあり、オープン性が生きていないのでは?仕様は公開されているが、実装は任意。当然、解釈の違いとかあるんだろう(インターネットの世界にもよくあるが)。
・開発技術手法など公開されている情報、書籍が少ない?

■今後の展望、課題:
・ネットワーク接続性、協調動作
・セキュリティ
・ソフトウエア部品化、開発環境整備など開発効率向上
・オープンソース化(ITRONの実装例として何かソースが公開されてはいるらしい)

 実は本書の内容より、著者紹介の「進化した技術は魔法のように見えなければならないと信ずる」という言葉が一番印象に残った。もう一言付け加えるなら「分かりやすくなければならない」。機能が豊富なのはよいが操作を覚えるのが大変というのでは万人に受け入れられるものではない。
 時間があればオープンソース化されているというものを一度調べてみたいと思っている。

更新日: 02/05/29