読書メモ  

・「人情裏長屋
(山本周五郎・著、 \552、新潮文庫) : 2001.12.24

内容と感想:
 
「雨あがる」(短編集「おごそかな渇き」に収録)の続編があると知り、つい読みたくなって購入。こちらも短編なので、どの本に収録されているかを探すのに苦労した。
 全11編。最後の2編だけが現代が舞台。残りは江戸時代の庶民や浪人たちなどを主人公にした短編。第二次大戦前後に書かれたもの。氏の描く時代物は歌舞伎の世話物に通じる。十分、舞台化可能だろうと思う。またしても、ついほろりと涙を誘われる小品が満載。

・「おもかげ抄」 妻を早く亡くした男。その妻への変わらぬ愛情と彼の腕に惚れ込んだ隠居。隠居はその彼に娘を後妻にと・・

・「三年目」 奉公先がつぶれ、そこの娘と許婚であった男は、店を盛り返すためと3年の期限付きで大阪へ稼ぎに出かける。娘を弟分に頼んで。しかし3年後戻った彼は娘が弟分と夫婦になったという噂を聞く。逆上した男は、折からの大雨と洪水の町へ・・

・「風流化物屋敷」 化物が出るらしいと噂され、人が寄り付かない屋敷に侍が越してきた。案の定、彼が床についた夜、化物たちが騒ぎ始めた。

・「人情裏長屋」 母に死なれたばかりの赤子を残して仕官のためにどこかへいってしまった侍の代わりに、父親同様に赤ん坊を育て始めた浪人。夜そばなどを売りながら何とか生計を立てていた彼の前に、仕官を果たした侍が預けた子供を引取りに来て・・

・「泥棒と若殿」 若殿が一人で軟禁状態の屋敷にとんまな泥棒が盗みに入った。盗むものなどないどころか泥棒は不憫に思ったか、いつの間にか若殿の世話をするようになる。

・「長屋天一坊」 強欲な一家。乞食をご落胤と奉ったことでもう大変。

・「ゆうれい貸家」 怠惰な生活を送る夫に、心を入れ替えて働くまでは家には戻らないと妻は出ていった。ある夜、一人残された男の前に遊女だっという幽霊が現れる。幽霊は彼に惚れ込み、毎晩食べ物を届け、面倒を見てくれる。二人(?)は幽霊を雇って、恨みのある人を怖がらせるという珍商売を始めるが・・

・「雪の上の霜」...「雨あがる」の続編。三沢伊兵衛、相変わらずの人の好さと不器用さが今回も発揮される。いいキャラである。

・「秋の駕籠」 仲のよい二人の駕籠屋。仲がよすぎて喧嘩もする。その二人が大金を持った詐欺師を乗せて、箱根に向かったところ、役人に見咎められた客だけが連行され、駄賃ももらえず途方にくれる二人だったが、なんと客が駕籠に金を置いていった。

・「豹」 神戸の須磨動物園から豹が逃げ出した事件を題材にした現代劇。女性に豹の姿を見るという、ちょっとした恐怖。

・「麦藁帽子」 かつて愛した女性のことを他人の噂話のように、何度も人に話して聞かせるという老人の話。

更新日: 01/12/25