読書メモ  

・”われわれはなぜ山が好きか〜ドキュメント「日本アルプス登山」70年史”(安川茂雄・著、 \657、小学館)


はじめに:
 江戸末期から第二次大戦以前の近代日本の登山史を綴る意欲作。

内容と感想:
 
植村直己や長谷川恒男などスター的な冒険家の登場したり、中高年の登山ブームが起こる遥か昔から日本人は山登りが好きであった。
 本書は江戸時代末期の黒船来航に伴い、来日した外国人がもたらしたヨーロッパ的な登山が、それ以降の日本の登山史に与えた影響と、明治へと時代が移り変わって、それまでの信仰登山とは趣旨の異なる、若者達による尖鋭的な登山へと展開していく様子を描くドキュメント。

 私は以前に住谷雄幸氏・著の「江戸人が登った百名山」を読んで、江戸時代以前にも多くの日本人が各地の高山に登っていたいたことを知っていた。しかし、当時のそれはどちらかというと山岳信仰(山を信仰対象とする)が主であった。
 それが明治初期に来日した英国人牧師ウエストン(日本アルプスと命名したのは彼らしい)らが日本の名立たる高山に遊び、それを海外に紹介したり、欧州の登山用具などを日本に持ち込んだりすると、日本の登山の姿も次第に変わっていく。
 信仰のためではなく、純粋に山を植物や博物学の対象として見たり、かつて誰も踏んだことのない処女峰を目指すことをスポーツ的な観点で捉えたりする若い日本人達が登場するようになる。しかし当時は、ごく一部の裕福な家庭の子女による山行がほとんど。旅費や宿泊費、案内人の手配など金がかかるからだ。従って一般人からは少なからず、金持ちの道楽という見られ方をされたのではと想像する。
 そして彼らは夏山歩きには飽き足らず、現代のように必ずしも機能的な装備がなくとも、岩登りや冬山にも挑むようになっていく。まさに日本登山史のフロンティア的な存在であった。
当然、偉大な成果が語られるとともに、その陰には多くの犠牲者の存在があったことも書かれている。

 内容としては史実に基づいて、お雇い外国人の山旅から、山岳会の結成、大学の山岳部間の競争などを中心とした日本登山界の変遷が年を追うようにして忠実に描かれている。意図的にだと思われるが筆者の見解は極力述べないようにしているようで、個人的には面白味に欠けるというのが感想。
まあ、こんな時代があったのだと知ることは出来た。

更新日: 00/09/08