かつらの使用法



ある冬の日の話しである。その日はとても良いお天気だった。
もともと父は体を動かすことが好きで、天気が良ければ必ず庭に出て働いている。
大抵は庭木の手入れ等をしている。
私が一番驚いたのは家の外壁を塗り替えてしまった事だ。
日曜日だったので出かけていた私は夜遅くに帰宅した。暗かったので外壁の事に気付くわけもなく部屋に入ったのだ。翌日、通勤のために玄関を出た私はドアを閉めた瞬間、何かが違う様な気がして振り返った。
その時初めて、以前とは全く違った佇まいになってしまったわが家に気が付いたのだ。いやぁ、月曜の朝から驚かせてもらったよ。一言ほしかったよ。
しかしその時は私にも時間が無く、とにかくたまげた状態のまま会社に向かったのだ。
で、話しが随分とそれてしまったけれど、ある冬の日の話し。その日は父は物置の掃除をしていた。
物置の掃除なんて久しぶりだからものすごい埃なのである。あまりの埃に父は、何か頭にかぶる物を探した。
で、その時に目に入ったのが、母の昔のかつらなのである。
父は人の目を気にしない。だってそのかつらを被ってそのまま掃除を続けていたのだ。そのまま外にゴミを捨てに行ったりしていたのだ。
たまたまそれを見かけた私は、大笑いしながら父に「なに被ってるのよー」と言った。
父は「だって埃っぽいんだよ。それにこれ、暖かそうだろ?」と返してきた。その後「でも近所の人達が変な目で見るんだよなぁ」とも言っていた。当たり前だよ。まあ、いいけれどさ。



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