新聞の使用法



「ご対面番組」というものがある。
幼い頃に生き別れになった兄弟や初恋の人、お世話になった小学校の先生などを探し出して番組の中でご対面させるあれである。ちょっとたれ目の司会者に「会えて良かったねぇ」なんて言われてしまって、本人達もお茶の間でこたつに入ってミカンでも食べながら軽い気持ちで見ていたおじさんおばさん達もみんな泣いてしまうのだ。
よくわからないが、どうやらそれが「ご対面番組」の正式な楽しみ方らしい。その類の番組が苦手な私は、当然自分からチャンネルを合わせる事はない。

しかし先日、ぼうっとテレビを見ているところに父親がやってきて、先程の「ご対面番組」(名前は覚えていないのよ)にチャンネルを合わせてしまった。そして新聞を持ったまま、テレビが一番見やすい場所を陣取ったのである。
わが家では父権というものが立派に存在しているので、心の中では「こんなん見るの?」なんて思いつつ父に従っていた。手元にある雑誌を眺めながら番組を見ていた。
ふと父親の方に目をやると、自らチャンネルを合わせて特等席まで陣取った父が思いきり目の前に新聞を広げて読んでいるではないか。おいおい、見ていないのかい。
「テレビ見ていないのだったら、チャンネルかえるよ?」
声をかけてもうんともすんとも言わない。
どうやら新聞を読むのに熱中しているんだな。私は父の前に行き
「お父さん、チャンネルかえていい?」
と言いながら目の前の新聞をひったくるようにして父の顔を見た。
するとなんと、父の目からはものすごい勢いで涙が流れているではないか。台風の後の那智の滝のような涙だった。父はテレビに感動して泣いていたのである。
「俺、こうゆうの弱いんだよー」とかなんとか言いながら、劇画タッチのぶっとい涙を流していた。
娘としてどうしていいのかわからず、とりあえず元の状態に新聞を持たせたのであった。



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