成長しなかった私



「ちいさい」とよく言われる。
中学生になって間もなくの身体測定では、私の身長は149.7cmだった。クラスの中では小さい方ではあったものの、必ず2人くらいは私より小さい人がいたので特に自分では気にしたことがなかった。
現在、152cm。考えてみれば、その当時から殆ど伸びていないんだよな。おそらく現在の小学5年生の平均身長がそのくらいだったと思う。6年生にはとっくに追い抜かされている。緊張するのは通勤時、集団登校の小学生の団体に出会ってしまったときだ。混ざらないように、猛スピードで歩き抜かす。または、やけにのんびりと歩いて抜かされるのを待つか。なにしろ疲れるんだよな、あの団体を見ると。

以前にこんなことがあった。ぶちまけてしまった書類をしゃがみ込んで拾っていた。やっと拾い集めて揃えている時、私の右方からものすごい勢いで走って来た人が私に思いっきりつまづいたのだ。
「ぎゃー」と言いながら横に転がる私。バランスを崩しながらも猛スピードで走り去ろうとしたその人は、その声を聞いて数メートル先で立ち止まってゆっくりと振り返り、転がっている私を見てこう言った。
「すみません、何か落ちている物につまづいたと思ったら、人だったんですね?。」
すみません、人だったんです。
身長188cmのあなたから見たら、それはそれは小さいでしょう。東京タワーの展望台から見おろした、下を歩く人達の小さいこと。太宰君、今の私なら君と友達になれるよ。蟻の気持ちもわかるような気がする。そんなことを考えながら、またしてもぶちまけた書類を拾い集めたのである。

こんなこともあった。これは単に小さいだけの問題ではないかも知れないが。
夏などは、家にいるときは大抵はTシャツにショートパンツで過ごしている。近所のコンビニエンスストアなどに行くときも、そのままの格好である。
ある暑い日、突然アイスクリームが食べたくなった。家の冷凍庫の中を覗いたが何もない。仕方がないので買いに行くことにした。Tシャツにショートパンツにスニーカー。財布だけ持って家を出る。コンビニエンスはすぐそこだ。面倒だから、たくさん買い置きしておこうなんて思いながらアイスやらシャーベットやらの入ったボックスをのぞき込んでいた。わきで同じようにボックスの中を見ていたおばさんが私の目の前にあるアイスをとろうと手を伸ばしながら私に言った。
「ちょっとぼく、前、ごめんねー」

は??ちょっと、ぼく??
確かに"ぼく"と聞こえた。思わず周囲を見渡してみる。私とそのおばさん以外に人はいない。もしかして"ぼく"って、私の事?私って"ぼく"なの?
もしもこれがマンガなら、私の頭の上にはでっかい?マークが浮かんでいたのだろう。
その後、我に返った私はなんとなくそのおばさんに真実を知られるのが申し訳ない気持ちになって、静かにその場を立ち去った。
しかし巷のおばさま方にとって、"ぼく"とはいったいどのくらいの年代なのだろう。せいぜい小学生くらいかなぁ。まあどっちにしても、物に間違われるよりはいいか。



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