突然やってくるもの



もともと赤血球が少ないのだろうか。夏場は特に貧血になりやすい。
血圧70-40は人じゃあないとよく言われるが、それでも生きているし案外丈夫なのだ。風邪などひかないし、ひいても1日で追い出してやる。私の体内に入ろうなんて、100年早いんだよ!なんて思いながら意地でも治すのだ。

よく学校の朝礼中に突然倒れる生徒がいた。私の場合は、貧血になる前にはそれなりの予兆があったので(目の前が暗くなるとか、寒くもないのに鳥肌がたつとか)倒れるまで我慢しないで、早くにしゃがむなりなんなりすればいいのにな、なんて他人事ながら思っていた。

それが、突然やってきたのである。
新宿歌舞伎町にシネマスクエアとうきゅうという映画館がある。今はどうだか知らないが、以前は結構私の好きなタイプの映画がかかっている事が多かった。
仕事帰りに1人で映画を観て、さて帰ろうと歩き出した。西武新宿駅はすぐそこである。人気の少ない裏道を歩いていたはずなのだが、突然意識を失ったのだ。歩きながらばったりと倒れたのである。
周囲の人達からは、まるで転んだ様に見えただろう。しかししばらく起きあがらなかったらしく、私が気付いた時にはほんの少しの人だかりが出来ていた。
意識が戻って最初に気付いたのは、歯を欠いているということ。これはさすがにショックだった。
ひとりのおじさんが、「大丈夫ですか?そこに病院があるから、行きますか?」と声をかけてくれた。歯を欠いた事でかなり動揺していたのだが、そんな時こそ冷静に振る舞ってしまう私はきっぱりと「有り難うございます。大丈夫です!」とはっきりと言ってすぐに立ち上がった。とりあえず服が汚れていないか、鞄の中身は散乱しなかったかと簡単にチェックしてすたすたと歩き出した。
歩き出してすぐに、ある事に気が付いた。通り過ぎて行く人達がみんな私の顔をじろじろと見るのである。
おかしいな。服も汚れていないし、口を閉じているから歯が欠けているのもわからないはずだし。そんな事を考えながらビルの隙間にはいって鏡を見てみた。
見てびっくり。右頬骨あたりと鼻の下から、血が流れているではないか。
何事も無かったように歩いていたのに、実は顔面から流血させていたのだ。いやぁ、たまげた。そして笑った。そんな自分の姿を想像して、また笑ってしまった。だって顔面から血を流しながら笑っている女なんて、考えただけで怖いよ!
それからとりあえずハンカチで顔を隠して電車に乗ったのだけれど、車内でもおかしくて仕方なかった。笑いをこらえるあまり、息が荒くなる。そんな自分の姿がまたおかしいのだ。顔から血を流しながら肩で息をしながら笑う奴。怖すぎる。

家に帰って、両親にいきさつを話した。せっかくだから写真を撮った。顔から血を流すことも、前歯を折ることも滅多にないだろう。出来上がった写真を見ると、今一つ上手に撮れていなかった。
うーん、残念無念。本当に悔しい。もう少し、写真の勉強をした方がいいなと心から思った。



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