ある法事での話



 幼い頃から法事とはやたら縁があるのだ。
親戚がやたらと多く、しかも何故かみんな関東圏に住んでいるという事と祖父母と一緒に暮らしていたということ、おそらくそんな理由からだと思うけれど。おかげさまですっかりお寺好きの人間になってしまいました。お坊さんは髪の毛、ない方がいいですね。なんてそんな事はどうでもいいか。

 親戚の法事に行った時の話しだが。お坊さんがお経を読む、その後ろで正座をしてそれを聞く。普通は何分くらいなのかなぁ。その時によって違うと思う。正座がつらくなって長く感じるとか、今日は調子がいいから短く感じたとか、そんな事かもしれないし。お坊さんがいきなり歌を唄うように節をつけたりする事もある。宗派によって違うのかも知れないね。そういう話しは全くわからないので、なんとも言えないのだけれど。

 その日も例によってお経を聞いていた。
そろそろ足がしびれてきたなぁ。私は足を崩しても気付かれないように後ろの方に座っていた。長いスカートを履いているのも足を崩してもわからない様にだったりする。私の前に座っているおじさんなんか、最初っからあぐらをかいているし。
足が痛くなってもぞもぞ動き出したころ、お焼香タイムがやってきた。前の人達から順番にお焼香をする。ここで少しだけ、足の痛みをほぐすことが出来る。私は順番を待っていた。ちょっとだけ緊張する。
あれって何回やるんだっけ?なんて前の人の行動をしっかり見ていたりして。最前列右はじの人から順番に始まって、丁度お坊さんの後ろに座っていた親戚のお姉さんの順番が廻ってきた。
 お姉さんはしっかり歩いてお焼香をしにいくつもりだったと思う。
しかし自分の予想以上に足がしびれていたんだな。思わずよろけてしまった。
大きく体のバランスを崩して倒れそうになったその時、こともあろうに今、お経を読み続けているお坊さんの頭に自分の手をついてしまったのだ。お姉さんの全体重はその時、あのまぶしいばかりに輝くお坊さんの頭に乗ってしまったのだ。

 いや、これほどの苦痛はあっただろうか。こんなに面白いことを目の当たりにしながら笑えない。
つらい、つらすぎる。私はしびれた足をつつきながら、必死に笑いをこらえていた。周囲の親戚達も同様に、自分の腕をつねったりしながらこらえている。みんな、つらかったよね。

 偉いものだ。お坊さんは一瞬お経が止まったものの、何事もなかったかの様にそのまま読み続けた。おかげで転ばずにすんだ親戚のお姉さんも、私達が動揺しまくっている間にさっさとお焼香を済ませていた。
 私と同じ年の友人が、法事には一回も出たことがないと言っていた。親戚付き合いは面倒だしって、それは確かにそうなのだけれど、こんな事もあるんだよ。一度は行ってみるべきだと思うよ。



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