NICUものがたり

 

未熟児を出産すると、未熟児集中治療室(NICU)に赤ちゃんが入院することになる。赤ちゃんたちの世話をしてくださるのは、主治医はじめ研修医、看護婦のみなさん。親はただ赤ちゃんのためにおっぱいを運び、名前を呼びかけることくらいしかできないけれど、わずかな面会時間でも親子の絆をもとうと一生懸命のお母さんたちを、スタッフがサポートし、ある時にはお母さんたちに母としての自信をもたせるように努力してくださっている。ここでは、そんな病棟内の様子をまとめてみました。


 優香が出産後入室したNICUは,未熟児などで生まれ集中治療を要する赤ちゃんたちがいる。クベース(保育器)のまわりにはモニター、酸素、人工呼吸器、輸液、栄養チューブなど様々な器具が配置されている。クベースや器具が6床分並ぶと室内は窮屈な感じだ。
 クベースは体温調節が十分でない赤ちゃんに快適な温度や湿度を与えて,体温を一定に保つことの出来る機械。クベースに入ってる赤ちゃんでも1日1回は外に出る。体重測定の時で,その時は室内温度を高くする。
 NICUの午前中は検査の嵐で熱気につつまれ、看護婦さんたちの一番忙しい時間帯のようだ。赤ちゃんたちは周りの慌ただしさをよそに、ぐっすり寝入っていることが多い。
 看護婦さんたちは常に動いている。泣き出す赤ちゃんに声かけしたり、世話をしたり、検査をしたり、器具の点検をしたり、片時も休むことなく動いているのに、疲れを見せず笑顔で接してくれる。その笑顔は未熟児をもって不安や心配を懐いている私たち親の気持ちを、どんなに楽にしてくれていることか。看護婦さんにはいつも感謝の気持ちでいっぱい。

 

●入室手順●

 入口にインターホンがあり、それを押して名前を言った後、面会簿に記入。下足を履き替えてロッカーに荷物などを入れる。病棟内への持込は最小限にとどめる。母乳(冷凍したもの)は受け付けカウンターで看護婦さんに渡す。イソジンでの手洗いのあと抗菌エプロンをして、再びイソジンで手を洗う。抗菌エプロンは、スタッフは半袖、面会者は長袖になる。

 入室した後はクベース(保育器)に手を入れて赤ちゃんに話し掛けたり、触ったりする。こうすることで、赤ちゃんは安堵感を得られるのだという。風邪など赤ちゃんに感染するような病気を患った場合は、担当医や看護婦さんに相談、場合によっては面会できないこともある。頭痛薬などを使用する場合でも、搾乳しているお母さんは念のため看護婦さんに相談したほうが良い。


●面会時間●

 NICUは赤ちゃんの集中的な治療や看護を行うところなので、治療や看護上、面会には制限がある。
 午後1時から3時半までが面会時間。面会は両親のみ。24時間のうち2時間半は、親にしてみるととても短く感じられる。クベースにいる頃は特に世話することもないせいもあって、ただ見ているだけの2時間半が長く感じられるけれど、赤ちゃんがクベースの外に出て親がお風呂に入れたり、ミルクをあげたり、あやしたりできるようになると、とても短いし満足できる時間の長さとは思えなくなってくる。まして、優香のように長期入院の赤ちゃんをもつ親としては、世話する時間プラス一緒に遊ぶ時間がもうちょっと欲しくなる。
 毎日面会に行けたら一番いいのだが、上の子がいると面会時間も思うようにならない。平日週1回しか面会できなかったときは、優香が私を忘れてしまいそうで、ちょっと怖かった。私より看護婦さんのほうに愛想をふりまいたときは、哀しいかな軽い嫉妬さえ覚えてしまった。母親なのに何もできない自分に苛立ったりもした。
 でも,優香のいるNICUでは、面会時間も若干変えてもらえる。看護婦さんたちが何とか調整してくれ、こちらの都合に合わせてくれることもある。私が平日1回しか面会に行けないときは、普段面会できない分朝からたっぷり時間をとってもらっている。また、面会できない日には、電話をすれば赤ちゃんの様子や計測結果などを教えてくれる。
 大切なのは赤ちゃんがある程度満足できるような状態にしてあげられるか、ということだと思う。治療と精神的ケアの2面が必要になってくるのかもしれないけれど、2面とも活かすのは病院にとっては大変なことかもしれない。だけども、長期入院の子供をもつ親としては精神的なケアもお願いしたいのだ。(1999.07)

 

●赤ちゃんの環境●

 

 NICUでの赤ちゃんの環境は、入院当初クベースに入り、必要ならば酸素や人工呼吸器を使い、ミルク専用のチューブを鼻や口から入れて飲むことになる。

(クベース)体温調節が不十分な赤ちゃんに最適な温度や湿度を与えて、体温を一定に保てる機械。クベースは定期的に消毒されるため、長期入院になる場合でも清潔を保てる。

(モニター)赤ちゃんの胸や手足に電極がついていて、それが呼吸や心臓の状態などをモニターに数字や波形として表す。呼吸や心拍に変化があったり電極がはずれると警報音が鳴る。モニターは始めの頃は大きめだが、週数が多くなり安定度が増すと小さいサイズになる。

(酸素)空気中に含まれる酸素は21%くらいだという。これ以上の酸素が必要になるため、赤ちゃんが呼吸困難な場合には血液中の酸素量をはかって、赤ちゃんに合った酸素を与える。

(人工呼吸器)自分で呼吸できない赤ちゃんのために、必要な酸素と炭酸ガスをうまく交換させることができる機械。口のなかにクダが入る。クダの大きさは成長とともに変わっていく。

(光線療法)黄疸がある程度超えたときこの治療をする。目を光線から守るため、アイマスクをつける。

(栄養チューブ)未熟児の赤ちゃんは哺乳瓶でミルクを飲めるまで時間がかかるため、その間鼻や口にチューブを入れ、注射器に入れたミルクをポンプを使って注入する。0.5ccから飲み始める赤ちゃんも多い。(1999.07)

 

●より良いケアへ●

 たまにしか面会に行かない時には気づかなかったことが、毎日面会に行くことによってわかることが多々ある。時には疑問や不満、不信になったりすることもある。引き継ぎがまるで出来ていなかったり、忙しいときには目が行き届かなかったり、うっかりミスが立て続けに起こったりする。
 これまで家族は赤ちゃんをあずけ育ててもらっていることに感謝し、遠慮し、言いたいことも言えないことが多かった。それが最近意見や提案をするお母さんが増えだし、病棟内としてもそれを謙虚に受け止め、赤ちゃんや家族のためにより良いケアができるように、スタッフ揃って考え実行していこうという動きが出始めた。
 問題点・対策は赤ちゃんの病状や月令によってケース・バイ・ケース。この度、受け持ち看護婦1人制になったことで、責任の所在を明らかにし、相談や提案、意見を一括して言えることになった。優香の場合、もうじき2歳を迎えるということで、情緒面でのケアを訴え続けてきたけれど、受け持ち看護婦と半月に1回、時には担当医も交えてのミーティングを開くことにし、優香の現状、治療方針、発達へのケアなどを具体的に話し合える場ができた。これによって、家族の精神的なストレスが緩和されるようにもなるといいのだが・・・
2000.04)


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