小人閑居して不善をなす

なんか懐かしい感じ

In October of 1994,
three student filmmakers disappeared
in the woods near Burkittsvill,Maryland
while shooting a documentary...

A year later,their footage was found.


1994年10月、メリーランド州バーキッツイヴィルの森近辺で
ドキュメンタリーを撮影していた映画学科の生徒3人が、行方を絶った。

1年後、彼らのフィルムだけが発見される。
"THE BLAIR WITCH PROJECT"(TM)パンフレットより

あんまりにもカッコイイので、これがそのままお題。
久しぶりの「小人閑居」は、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」。
いやあ、予告編見ただけでも怖かったんだが、やっぱしマジで怖い。
俺個人の好みでもあるが、この手の「引きの強い」コピーにやたら弱い。
文章で言うと、コラムや記事原稿なら冒頭2〜3行、長文なら最初の2〜3枚で、
こういう「引きの強い」文章を書かれると、たいがい最後まで一気に読める。
自分の文章でもそういうのを狙っていて、悲しくなるほど反応の無い「戦場の貧乏神」なんかだと、

その都市には「空」がなかった。

だったりして、個人的には、もうこの一文だけで「傑作」決定だったりする。
自画自賛もここまで言うと、嫌みだね。
寒いし。
でも、気になった人は読んでね。長いけど。
そんでもって、どうやら「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」って、本当にあった話らしいでしょ。
冒頭のネームも単純で短いんだけど、意外とそれが真実味を増しているし。
(あー、ごめん。できるなら、ネタバレなしで書こうと思ったが、無理。
この辺は読んでもネタバレしないけど、後半でネタバレする。見てない人は絶対に読まない方がいい。)
実際、何故か俺も本当の話だと信じていたし、
どこぞの若い(20歳くらい)ねーちゃんも、この話を実話だと思っていたぞ。
俺はまあ、いい年こいているので、実話だとしても「事実を元にしたフィクション」か、
「実際に発見された映像をヒントにストーリーを構成して、役者を使ってきちんと撮影した映画」
だと思っていた。
これについては、後で詳しく書くけど、WEBサイトとかの情報ゼロだったから、
余計に、それほどハマってなかったわけだ。
見終わった後、つくづく後悔している
まだ、見てない人は、ここをチェック。

そんなわけで、前情報はほとんど冒頭のコピーオンリーのみで本編見た。
休日とはいえ、映画館内は高校生のねえちゃん(しかもほとんどカップルではない)ばっかし。
高校生に限らないんだろうけど、やっぱ若いねえちゃんはこの手の話が好きだねえ。
だが、うるせえのはなんとかしろよ!
それはさておき、本編がなんかまあ、ちゃちいの。
パンフレットには(すべてが)書いてあるのだが、
この映画は「ハクサン・フィルムズ」という5人が低予算で制作したものなので、それも無理はないか。
だが、それ故に怖い。
俺はまあ、見ながらもまだ「これって、映画用に撮った映像だよな」とか、
思っていた(すでに実話だとは信じていた)ので、
安っぽいというか、俺も昔こういう映画撮ったぞとか思った。
誰でもやるでしょ、学校の文化祭とかで、
近所の森とか廃屋とか、雰囲気のある場所を使って、手軽にホラー映画撮るっての。
いや、本当にああいう感じ。
俺は映画を最前列で見る主義なので、カメラの手ブレで酔いそうだった。
最初の内の、まだほとんど緊迫していない頃の場面なんか、いかにも「楽しい旅行ムービー」ノリ。
ムービーカメラ撮影の基本として、
極端なクローズアップは避ける。
ってのがあるのだが、そんなの無視。どうしてこの映画が見づらいのかはそれが理由。
繰り返すが、だから怖いのだ。
いかにも(主人公の3人は映画学科の生徒のはずだが)、素人っぽい撮り方とか、
極端なクローズアップの連続が、緊張感を高めることときたら。
恐怖映画見慣れてくると、「この辺でバーンとなんか出てきて怖わがらす」
みたいな感じが予想できるのだが、そういうのまったくなし。
それでも恐怖の連続なのは、素人っぽいがゆえに「感情移入」しやすい映像なんだろうね。

で、話は見終わった後へと移るんだが、
見終わった直後は、夢でうなされそうなほど印象の強いラストのおかげで、
「この映像って、本当に発見されたマジ映像かもしれないな」
とか思ったよ。
そうでないとすれば、仮にもプロが「確信犯的に」素人っぽい映像作ったということになるが、
それこそ、信じられなかった。
そういうわけで、確かに怖かったんだが、怖い「映画」ではなかった。
怖い実話なら、日本では新聞読んだりテレビ見ても似たようなのがしょっちゅう起きているし。
オカルトを信じる人には悪いが、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の怖さって、
俺的には日本の猟奇殺人と同種。
つまるところ、仮に実話だとしても、土地の魔女伝説を模倣した猟奇事件および、
下手に首を突っ込んで被害者になった連中のまぬけな証拠映像としか思えない。
怖くないと言っているのではない。こういう国に住んでることがマジで怖い。
無論、本編にはそれらしい犯人は出てこないが、明らかに「何者か」が存在するのは間違いない。
魔女はいるわけないので(かつてはいたかもしれないが、今は絶対にいないと主張する)、
やっぱ犯人でしょ? でなければ狂言。これが論理的な判断。
それはさておき、改めて「うお、実話くせえな、おい。」と思わされたのは、
パンフレットの内容ね。(袋とじ開封前)
なんかねえ、その土地の歴史や「ブレア・ウィッチ」の伝説とか、年表付き&地図付きで詳しく載ってるのよ。
ディティール凝りまくり。
そのうえ、遺留品のフィルムをチェックした警察が、
(このへんも、警察が諦めて捜索を打ち切った後、遺族が自費で捜索を続けたというエピソードあり。)
「これは狂言だ」と、断定し(ほらね)、立腹した遺族が訴訟を起こして現在も係争中とか書いてある。
やたら、本当っぽいでしょ。
とくに、本国アメリカでは、公開の随分前からこの手の情報をWEBサイトで発信していたのだ。
日本で言うなら、現在進行中の猟奇殺人の証拠映像が発見されて、映画公開されるようなもの。
しかも、公開直前には、映画のその後(遺族のこととか)を収録したドキュメント風特別番組まで放送。
これは盛り上がりまくるでしょ。

いよいよ、ネタバレだ。
この「映画」、パンフレットもよく出来ていて、
(余談だが、グッズも凝っていて、「スティックメン」組み立てキットまで販売。すげえ欲しい。
ただ、よく考えると、近所の森へ行けば簡単に自作可能。)
本編のほとんどを占めるモノクロページが袋とじになっている。
そこを破いて中を見ると、すべてがわかるって仕組み。
このあたりも良くできている。
無理に引っ張るのもつらいので、さくっと言っちゃうと、これ全部ウソ
やっぱり「映画」だったわけだ。
歴史も事件もすべてフィクション。実に手が込んでる。
そうなってみると、「確信犯的」素人映像とか(それはそれで大変だったらしい)、
全部が素晴らしい。こういうの計算してできないよ、普通。いやもう、最高の「映画」よ。
多分、高校生くらいでも、役者に演技力がありさえすれば、本編と似たようなものは作れるかもしれない。
でも、きっと怖くないだろうな。
もしも高校が舞台なら、せめて1年くらい前から、そういう話を噂として流しておかないとダメでしょ。
そして、もちろん、映画に出ている連中は事前事後の間くらいは姿を消さないとね。
また、さっきから、しつこく日本の猟奇事件を引用してるけど、
こういう世相を反映したムードを「魔女」というオカルト的要素に結びつけるアイデアの巧みさ。
日本の猟奇事件を起こしている犯人は、参考にしてください。
するなよ!
さらに、WEBサイトにしても、「こういう映画宣伝の仕方があったとは!」と驚かずにいられない。
個人的には、映画見る前に情報入れるの嫌なので、
予告編以外の情報はシャットダウンして、なるべく紹介記事とか読まないようにしているのだが、
こういう前情報の生かし方があるとはねえ。
事前に情報入れずに見るのと、情報ありで見るのとは、怖さも全然違うと思う。
これはもう、WEBサイトも込みで「映画」だと言わざるを得ない。
情報発信がWEBサイトってのも、いいアイデアで、
これがいきなりテレビだったり、雑誌の告知だと、
末尾に「某月某日公開!!」てな感じになって、面白さも半減。
ニュースや新聞じゃ、(いずれ嘘とわかるので)絶対に報道できない。
ところがインターネットなら、映画のことなんぞ触れずに、
(架空の)事実だけを報道しちゃうことができる。
そういう偽情報と本当の情報の区別がつかないところもインターネットの面白いところと怖いところだよね。
改めて「ブレア・ウィッチ・『プロジェクト』」とは、ものすごく深いタイトルだったと納得する。
意外や、最近の映画宣伝のWEBサイトは、作りが凝っていて面白い(「マトリックス」とかも)のだが、
なかでもナンバー1の面白さでしょう。
俺は「映画」ってのを「金払って騙されに行く酔狂な趣味」と考えているので、こういうの大好き。
(映画も含めて、娯楽作品の作り手は全員詐欺師でしょ)
思いっきり騙されました。
この文読んで、見る前にネタバレした人には悪いけど、
この程度のネタバレで(警告もしたし)、見る気なくすようなら、
映画を楽しむ資格なしと言っておこう。

今に限った話ではないが、「映画」では何が起こっても不思議ではないだけに、
ここまでディテールに凝らないと人は騙せないのだと痛感。
映画作るのって、本当に大変ですね。

メールは下記まで FQ7K-TRI@asahi-net.or.jp