若者に格好のガイド 小原由夫「アナログレコード再聴戦」他


 私は仕事の都合上、東京と静岡にそれぞれ住居をもっている。「超」のつく音楽マニアでもある私は、音楽なしでは仕事も生活もできない。そこで両方にオーディオを備え付けてあるのだが、東京の方はデジタル、つまりCDプレーヤー、静岡の方はアナログ、つまりレコードプレーヤー中心のシステムである。
 聴く時間から言えば、デジタルの方がはるかに長い。しかしアナログは、中学の頃から限られた予算で一枚一枚買い足してきたレコードと、少しずつ買い足し、買い換えてきたシステムで、愛着が深い。
 最近、アナログが見直されているという。古くからのファンの回帰とともに、新たに若いファンも引きつけているようだ。しかしアナログで良い音を聞くためには、デジタルとは比較にならないほどの手間とノウハウを必要とする。今では手に入れにくくなったこれらのノウハウを集めたのが、小原由夫著「アナログレコード再聴戦」(径書房・二二六六円)である。
 カートリッジの取り付けやトーンアームの調整、レコードの管理や手入れなど。かつてオーディオ雑誌を読みふけっていた私には懐かしい内容が多かったが、若い人々には格好のガイドになるだろうし、忘れかけた知識を再確認するのにも役立つ。交換針や古いレコードの入手方法なども、ていねいに説明されている。
 星旭著「歴史的名曲、名盤に聴く」(芸術現代社・二二〇〇円)は、アナログ時代に活躍したクラシック音楽演奏家たちの、芸風と代表的なレコードを紹介したもの。今世紀はじめから七〇年代までに活躍した演奏家の多くを網羅しており、役に立つ読み物となっている。
 ただこの種の読み物で難しいのは、どうしても著者の好みが先行しがちなことである。個人的には特に、わが崇敬する指揮者ジョージ・セルのモーツァルト演奏を酷評したあたりが気に障った。近年の演奏への目配りが不足なのも気になる。マニアとは、かほどにウルサイものなのだ。

(1996.1月配信)

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