被写体の人は今・・・ グイド・クノップ「戦後50年決定的瞬間の真実」他

 
 たとえば、銃を肩にかけたまま鉄条網を飛び越え、西側へ逃亡する東独兵士。米軍のナパーム弾に焼かれ、痛みに顔をゆがめて泣き叫びながら走るベトナムの少女。繰り返し目にするうちに記憶に焼き付けられ、その時代のイメージとも化した報道写真がある。
 ところで、被写体になった彼や彼女、今どうしてると思います?グイド・クノップ著「戦後50年決定的瞬間の真実」(文藝春秋・2500円)は、こうした主に無名の歴史の主人公たちの、その後を追ったものである。
 元東独兵士は、今は平凡な会社員である。しばらくは時の人として注目を浴びるが、その後は職探しが大変。東独と西独とではまるで考え方が違い、なかなか受け入れられない。まともに認めてもらえない。後に旧東独の人々の多くが経験することを、彼は30年早く経験していたのだ。
 ベトナムの少女は、キューバの大学で学んでいた。毒薬を含んだ新型ナパームは、彼女の体に食い込んだ。その傷は今も激しく痛み、彼女を苦しめている。そして彼女は、子どもたちだと分かって爆撃した過ちを、パイロットたちに認めてほしいと言う。その後彼女は、亡命してカナダで結婚し、一児の母となった。
 全体は十七章からなり、各章の扉に時代を象徴する歴史的写真がおかれている。取材はしばしば困難を極めたであろう。しかしどの章も虚飾なくさらりと書かれていて、それがかえって、普通の人間である彼ら・彼女らが図らずも背負うことになった事実の重みを実感させるのだ。
 上野昂志著「戦後再考」(朝日新聞社・二二〇〇円)は、時代順に四〇ほどのテーマを取り上げながら、戦後五〇年間の日本社会の諸相について論じる。連合国主導の戦争終結という初期条件との関係から、アジアとの関係や五五年体制、昭和天皇の死といった様々な事象を考えるという視点が興味深い。元は写真雑誌に連載されたものだか、本書ではわずかしか写真が掲載されていないのが惜しい。

(1995.8月配信)

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