私は今、寿司が食べたくて仕方がない。寿司に関する本を二冊立て続けに読んだからである。
一冊目は、松本紘宇著「ニューヨーク竹寿司物語」(朝日新聞社・一六〇〇円)。著者は、ニューヨークに初めて本物の寿司専門店を開いた人物である。
前半部では、脱サラして渡米、魚の卸売業を経て寿司屋を開業し、日本食ブームに乗って成功を収め今日に至るまでの道筋が描かれる。多くの友人・知人、そして幸運にも恵まれ、本物の寿司屋を米国に定着させるに至った過程はまさに順風満帆。あまりに順調すぎて面白味に欠けるほどだが、日本食業界を支える裏方たちの素顔が興味を引く。
後半部は健康食ブームと「アメリカ料理」の発展など、現代米国の食文化についてのレポートである。食をめぐる日米関係にも多くのページが割かれている。例えば、アルコールを大量に添加しても「日本酒」と称して売ることのできる日本国内と違い、米国で飲む日本酒は米だけで作った本物の酒ばかりだ、など。見習いたいような「輸入障壁」である。
二冊目は佐川芳枝著「寿司屋のかみさんうちあけ話」(講談社・一五〇〇円)。元は寿司が大好きなOLで、サラリーマンになど目もくれず寿司屋に嫁いだという著者が、二〇年間の経験をもとに語る寿司屋の裏話である。
寿司の値段の話、客の知らないいろんな苦労、珍騒動の数々や客に教えられたことなど。多くのエピソードを中心に、寿司と寿司商売の魅力について語っていく。七年前から書き貯めていたというだけあって、話題は豊富。無駄のない気さくな文章で一気に読ませる。
著者は、「この本を読んで『ああ、なんだかお寿司が食べたくなっちゃったなあ』と思っていただけたら、とてもうれしいのだが」と本書を結んでいる。たぶん、多くの読者は著者の期待通りになることだろう。では、私も寿司屋へ行って来ます。
(1995.6月配信)