芹沢俊介は、現在もっとも活発に著作活動を行なっている評論家の一人であり、ある意味では当代一のトレンド・ウォッチャーと言っていいだろう。その最新評論集が、『眠らぬ都市の現象学』(筑摩書房・一七〇〇円)である。
テーマは大きく二つに分けられる。一つは、現代の風俗に題材を取った広い意味での消費社会論。もうひとつは近年注目を集めた人物を通じて現代社会を照射する、人物論=時代精神論。多様な題材を自在に論ずる発想の豊かさはさすがである。
たとえば著者は、スーパーマーケットが地域社会と家族の存在を前提に作られているのに対し、コンビニエンスストアは「ひとり」をイメージして作られているという。家族からも地域からも浮遊する「ひとり」を想定し、二十四時間営業する店舗形態。それは「眠らぬ都市」の浮遊する住民の、遊び行為としての消費の場なのである。
他方では三浦和義や角川春樹を取り上げながら、彼らの行動が新しい時代精神を反映していること、それゆえに人びとの伝統的な倫理や規範に抵触し、怒りや非難を触発したことが論じられる。
著者の自在な発想は、しばしば読者に共通の言語や論理の範囲を抜け出て難解になる。しかしそこには、不思議に一貫した旋律のようなものを感じさせる。
エイムクリエイツ編著『団塊ジュニア市場の読み方』(ダイヤモンド社・一九〇〇円)は、いかにもマニュアル化されたマーケティング書という作りだが、データがしっかりしていて知的好奇心を刺激する。少し年上の新人類世代とは違い、団塊ジュニアは家族志向・地元志向が強いという指摘など、芹沢の指摘と微妙にずれていて興味深い。
思えばかつての団塊世代は、大学紛争で社会を揺り動かした。政治に無関心な団塊ジュニアはいま、政党政治を無効化しつつある。その先に来るのは何か。今年は団塊ジュニアが揃って有権者となる初めての年である。
(1995.3月配信)