ヨーロッパを旅すると、町並の美しさに心を打たれることが多い。これに対して日本では、町並が美しいというだけで人々が大勢押しかける観光地になる。道路や下水道などの都市基盤の整備も、遅れていることが多い。
ところが岡並木著「江戸・パリ・ロンドン」(論創社・三〇九〇円)によると、江戸時代の日本の都市は同時代のヨーロッパの都市、たとえばパリやロンドンよりもはるかに計画的に作られ、清潔で快適な都市だったのだという。
例えば雑排水は体系的に作られた溝や掘割に流され、街は清潔に保たれていた。街道は美しく整備され、道行く人の目に入る景観まで計算されていた。これに対してヨーロッパの都市では、雑排水や生ゴミが街路に棄てられ、地面は不潔なぬかるみにおおわれていた。そのあまりのひどさから、対症療法として舗装や歩道の整備が行なわれるようになるのだ。
両者が逆転するのは、明治に入ってからである。都市の環境が改善され始めたヨーロッパに対し、近代化を急いだ日本では江戸時代までの都市管理の伝統が破壊され、都市環境は悪化の一途をたどっていく。日本は今、一世紀の間忘れてきた祖先の知恵に学ぶべきだ、と著者は言う。
さらに各地での経験から著者は、これからのまちづくりに求められるものは何か、具体的に説いていく。それはまさに、目からウロコの連続である。とくに、高齢者にやさしい街路や交通システムについて書かれた第一〇章は感動的でさえある。都市行政や町内会・商店会、管理組合などに関わるすべての人に、一読を勧めたい。
石山修武著「世界一のまちづくりだ」(晶文社・二三〇〇円)は、東北の港町でのまちづくりの経験をもとに、本当のまちづくりとは、実際に住んでいる人々の手で、みんなの心の中に目に見えない何かを建てていくことだ、と説く。美しい写真と軽妙な文章で、楽しく読める本でもある。
(1995.1月配信)