仕事の関係などで海外に在住している日本人は珍しくない。帰化した人々や日系人を含めると、その数は三〇〇万人にも上るという。そんな人々へのインタビュー記録を二冊紹介しよう。
根岸康雄著「THEにっぽん人」(小学館・一四〇〇円)は、二年半をかけて集めたインタビュー記録から二十二人分を収めている。「自分を輸出した日系地球人たち」という表紙のコピーからは、才能ある人々の華々しい活躍の数々を想像させるのだが、実は登場する人々の大部分が、何かのきっかけで海外に渡り、定住してごく普通の庶民になった人々である。
エリートたちが海外で活躍しても、多くの日本人にとっては縁遠い話だ。しかしタクシー運転手や炭坑労働者、魚屋など、ふつうの庶民として海外で暮らす日本人の姿を見ると、やはり地球は一つなのだと実感する。こうした人々が多く出現することが、本当の意味での国際化というものなのだろう。
柳原和子著「『在外』日本人」(晶文社・二九〇〇円)は、海外に暮らす日本人一〇八人へのインタビュー記録。出版されて二ヶ月近く経つが、けっこう売れているようだ。
取材は四年間、四十ヶ国にも及んだといい、放浪青年や芸術家、実業家に大統領顧問、そして料理人や日系人を守る用心棒に至るまで、ありとあらゆる職業の人々が登場する。数が多いのみならず、登場する人々のそれぞれが波乱万丈のストーリーの持ち主で、六〇〇頁近いボリュームもまったく苦にせず読めてしまう。
何人かが共通に指摘するのは、仕事や観光で一時的に海外を訪れる日本人の醜態の数々である。現地の女性に子供を作らせて逃げる商社マン、高級ブランドの店になだれ込んで品物を奪い合う観光客、侵略者の側でもあったことを無視して原爆被害ばかり強調する平和運動家たち、露骨なエリート意識と民族差別など。「在外」日本人たちの感覚は鋭く、世界の中の日本人の姿を浮き彫りにする。
(1994.11月配信)