日本社会への鋭い観察 マルコ・ラセルダ「サンパウロ・コネクション」他

 
 一昔前まで、「国際化」という言葉には華やかで明るいイメージがあった。確かに今、日本社会は国際化しつつあるのだが、その様相はかつてのイメージとかなり違っている。国際化は「外国人労働者問題」という形でやってきたのである。関係する本の出版も、盛んになってきた。
 マルコ・ラセルダ著「サンパウロ・コネクション」(文藝春秋・一六〇〇円)は、かなり衝撃的な本である。著者は日本に住むブラジル人ジャーナリスト。発端は友人のアメリカ人の不審な死であった。なぜ彼は死んだのか。
 それを追う中から、風俗産業の集中する新宿・歌舞伎町で生きる日系ブラジル人女性たちの姿、その背後での暴力団の暗躍、麻薬取引と売春、そして南米から女性たちを調達する組織の実態などが浮かび上がっていく。
 目次の後の部分でわざわざ注記されているように、本書はノンフィクション・ノベルである。事実関係には変更が施されており、どこまでが事実なのか、読者は想像するしかない。しかし記述には十分リアリティがあり、大都会の暗黒部を垣間見させてくれる。
 また随所には、著者の日本社会への鋭い観察と批評が散りばめられており、これだけでも読む価値がある。「東京という街は、世界中で一番高給を取っているくせに世界中でいちばん貧しい人々が住むハイテクのスラム」「日本では経済がまるで非公式な宗教のようになってしまっている」など。指摘が的を得ているだけに、誇張の多い記述もむしろ楽しめる。
 これとは対照的に、梶田孝道著「外国人労働者と日本」(日本放送出版協会・八九〇円)は、外国人労働者問題への社会科学的な分析を試みたものである。外国人労働者たちの流入の背景や経路から始まり、雇用・労働や居住の実態、子どもたちの教育や社会・政治参加の問題まで、多くの問題が平易に解説されている。この問題への格好の入門書と言えるだろう。

(1994.6月配信)

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