私たちが日常目にすることの多いモノの歴史をたどりながら、社会全体の動きを浮き彫りにして見せる、というスタイルの本は、教養書のひとつのジャンルといってよいほどに定着している。竹原あき子著「魅せられてプラスチック」(光人社・一八〇〇円)もそんな本の一つだが、題材がプラスチックというところに新しさを感じさせる。
当然ながらカバーされる時代の幅は狭く、せいぜいここ一〇〇年ほどに過ぎない。しかしこのプラスチック、この間の社会の動きや人々の生活の変化の、何と多くの部分に関わっていることだろう。
プラスチックは、べっ甲やマホガニーなど高価な素材の代用品になるとともに、製造の手数を大幅に削減した。こうして一部の豊かな人々しか手にできなかった商品が、次々に庶民のものになっていく。そんな商品の代表がラジオと電話であり、これによって人々の生活はさらに大きく変わっていくことになる。プラスチックは、大衆消費社会を準備したのである。
またプラスチックは、台所や調理器具などを明るく清潔なものに変えていった。それは家事に責任をもつ存在としての近代的な主婦像、「女性らしさ」の理想にマッチし、明るく楽しい家事労働を演出することになる。
その他、戦争とプラスチックの関係についてなど、話題はきわめて豊富である。また、オードリー・ヘップバーンが主演した映画の場面の数々からプラスチックの歴史を説き起こす導入部は、はっとするほど見事。読んでいくうちに、プラスチックを見る目が変わっていく。
高山宏著『ガラスのような幸福』(五柳書院・二八〇〇円)では、カバーする題材と時代の幅がずっと広くなる。大学の助手時代に、数万冊の洋書の索引カードを作成する作業によって分類学のセンスを磨いたという著者が、テーブルや料理、スポーツといった題材を取り上げながら、「近代」という時空間の特質を論じていく。
(1994.6月配信)