いわゆる「ロス疑惑事件」で、三浦和義被告に有罪判決が言い渡された。判決の当否については議論もあろうが、この「事件」とその後の経過が日本のマスコミに与えた影響は大きかった。
最初の「疑惑」報道以後、マスコミ各社は、三浦被告の過去や個人的な言動なども含め、派手な報道合戦を繰り広げた。それらの中には取材が不十分であったり、被告が犯人であることを自明の前提として書かれたものも多く、次々に名誉棄損などで訴えられていく。これをきっかけに、報道される容疑者・被告の側の人権の問題が関心を集めることになったのである。
朝日新聞社会部編「被告席のメディア」(朝日新聞社・一二〇〇円)は、この「報じられる側の人権」の問題を、マスコミ側が正面から扱ったものとして注目される。取り上げられるのは、「ロス疑惑」のような有名事件ばかりではない。あたかも犯人であるかのように報道され、生活を破壊された無名の人々が何人も登場する。問題の広がりと深刻さをよく伝えている。
報道内容の可否が裁判で争われたケースが数多く紹介されているが、司法の判断はまだ固まっていないというのが結論のようだ。したがってマスコミの側も、個別に判断するしかないのが現状。犯罪報道はいま、過渡期にあると言えそうである。
しかし記述の一部には、人権への配慮が報道を萎縮させているとして「報道
の自由」の方を優先させようとする意図も見え隠れする。大新聞社のおごりがな
いかどうか、点検の必要もありそうだ。
プレスネットワーク94編著「新聞のウラもオモテもわかる本」(かんき出版・一四〇〇円)は、新聞社や通信社の現役記者が書いた、新聞業界の裏話本である。新聞記者の給料と勤務の実態や、取材現場でのエピソードの数々など、読み始めると止められない面白さだが、報道にともなう人権問題や政治家・企業との癒着の問題など、硬いテーマもしっかり押さえている。
(1994.4月配信)