人間関係の貧困化 金子雅臣「ホームレスになった」他

 
 不況が長引くとともに、日本でもホームレスが増加しているといわれる。確かに東京の地下道や地下鉄の駅などを歩いていても、こうした人々を目にすることが多くなった。彼らはどのような生活をしているのか、なぜホームレスになったのか。けっこう気になるものである。
 金子雅臣著「ホームレスになった」(築地書館・一七〇〇円)は、こうした人々の実態を描いた力作である。著者は、じかにホームレスの人々と接し、助力を求められることも多い都庁職員。興味本意に流れることなく、その実像と彼らを追いつめる社会的背景を明らかにしていく。
 人々がホームレスになる原因は、その職業生活にあることが多い。不景気による失業が中心だが、リストラ対象となって会社からひどい仕打ちを受けたり、単身赴任や出稼ぎの一人暮らしで精神的に消耗したことから、ホームレスになる例もあるという。
 世間の目は冷たい。住所も身元保証もないので、まともな職にはありつけない。事故に遭っても誰も守ってくれない。よほどひどい病気でもない限り、労働能力があるとみなされて生活保護も診療も受けられない。次第に衰弱し、路上で死ぬ人も跡を絶たない。
 著者は、「不況だからホームレスが増加する」という説明では不十分だ、という。それほど困窮していない人が、家族や同僚との関係に絶望して家を捨てていく例も多い。むしろ問題は、バブル経済の中で進行した「人間関係の貧困化」だ、と著者は指摘する。
 森川直樹著「あなたがホームレスになる日」(サンドケー出版局・一六〇〇円)は、フリージャーナリストを中心とするチームが、時には路上でともに酒を飲みながら、新宿の地下道などに住むホームレスたちを取材した記録。かなり急いで作られた本という印象が強く、取材不足を扇情的な見出しで取り繕ったような部分もあるが、ホームレスたちの肉声を伝えることにはある程度成功している。

(1994.3月配信)

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