今回は、アメリカ人の目から中国人を見た本を二冊紹介しよう。 グウェン・キンキード著「チャイナタウン」(時事通信社・二二〇〇円)は、ニューヨークのチャイナタウンに住む中国人たちの記録。
十九世紀後半、さまざまな差別と迫害に苦しんだ中国人移民たちは、生きるためにチャイナタウンに身を寄せ合い、閉鎖的な中国人社会を形成していった。その閉鎖性は、今も変わらないという。
受け継がれる中国文化と家族のきずな。その一方で、教育を受けてアメリカ社会に同化しつつある子どもたち。そして暗躍する犯罪組織。著者は困難な取材を通じ、強固なアイデンティティを保ち続ける中国人社会を、映画のような臨場感で描き出している。
訳文は読みやすい。訳者のあとがきも、本書があくまでも白人の視点から書かれたものであることに注意を喚起していて好ましい。ただ、原著に由来するものとは思うが、「大豆を煮て豆乳と豆腐に分ける」などといった不可解な記述がいくつか目についた。
アレン・S・ホワイティング著「中国人の日本観」(岩波書店・三二〇〇円)は、中国人の日本イメージを扱う。
一方で経済成長や教育水準に対する好意的評価、他方では「軍国主義」復活の危険に対する厳重な警戒。中国人の日本イメージは二面的である。そして著者によると、この二面性は日本と中国の文化の違いと関連している。
過去の歴史を重視する中国人は、都合の悪い過去に関心の薄い日本人を見て、侵略を繰り返そうとしているのではないかと疑う。これに対し日本人は、中国人が過去のことを持ち出すのは、日本に譲歩を迫るために過ぎないと考える。そこから両者の、非妥協的な対立が生まれる。
著者は第三者の立場から、日本と中国双方の認識に的確な評価を与えている。これに対して訳者解説は、日本政府の立場を弁護しようとする姿勢がやや前面に出たような印象を受けた。
(1994.2月配信)