ビリー・ホリデイ、ジュディ・ガーランド、マリリン・モンロー、ジャニス・ジョプリン・・・。
いずれも往年の女性スターたちだが、彼女らには共通点がある。それは身も心も傷つき、若くして世を去ったことだ。アーチャー、シモンズ共著「堕ちたスター」(音楽之友社・二三〇〇円)は、一九六〇年代までに活躍した十三人の女性スターたちの、不幸な生涯を描いたものである。
たとえば、ジュディ・ガーランド。幼くしてスターになった彼女は、純真な少女のイメージを維持するためにやせ薬を飲まされ、胸には包帯を巻きつけ、男性とのつきあいも許されなかった。興奮剤を飲みながら長時間の仕事を続け、仕事が終われば鎮静剤で眠った。そして体調をくずすと、会社は彼女を見放した。
あるいは、ジャニス・ジョプリン。彼女は既成の女らしさに抵抗したが、そのために淫らな女を演ずることを余儀なくされた。結婚も、友人をもつこともあきらめた。孤独と圧迫の中でヘロインに手を出し、これが死因となる。
彼女たちは共通に、既成の「女らしさ」の重圧に悩み苦しんだ。男性スターならば享受できる富や権力を、彼女たちは自由にできなかった。彼女たちを追いつめたのは男性支配の社会であり、同じ重圧は普通の女性たちをも苦しめ続けているのだ、と著者たちはいう。翻訳の出来は普通だが、フェミニズム用語に誤訳がみられるのが気になった。
著者たちは一方で、フェミニズムの波が変化を生み始めているというのだが、日本の女性たちの場合はどうだろうか。吉岡忍「女たちの地球」(潮出版社・1300円)は、主に海外で活躍する十二人の女性たちの生きざまを、インタビューをもとに描いている。彼女らの多くは、日本は人間を狭い型にはめる窮屈な社会だ、という。それゆえ、彼女らは海外に活躍の舞台を求めたのだ。だとするとこの国では、女性スターの悲劇も、また普通の女性たちの苦悩も、当分繰り返されていくことになるのかもしれない。
(1993.4月配信)