フランスの高等教育 光と影 柏倉康夫著「エリートのつくり方」他

 日本にも、エリート校と呼ばれる大学がいくつかある。不況で採用が減っているせいもあり、エリート校優位の傾向が強まっているとも言われる。しかしこれらの大学の入学定員は、東大で三五〇〇人あまり、早大に至っては八〇〇〇人に達する。エリート校と言っても、同時に大衆的な性格を兼ね備えているのだ。
 フランスには、これとは比べものにならない文字通りのエリート校がある。それがグランド・ゼコールと呼ばれる国立の高等教育機関、特にその中核をなすいくつかの学校である。柏倉康夫著「エリートのつくり方」(筑摩書房・六八〇円)は、グランド・ゼコールの歴史と現状を興味深く読ませる好著。
 グランド・ゼコールの入学定員は、多くても四〇〇人程度。厳しい選抜をくぐり抜けた後には、徹底したエリート教育が待っている。卒業後は他の大学卒業者と明確に区別され、最初からエリートとしての待遇が与えられる。
 フランス国内には、グランド・ゼコールに対する信頼の一方で、こうした高等教育の二重構造が、一般大学の卒業生の意欲をそぐことへの懸念があるという。進学率の上昇とともに分極化の度合を増しつつある日本の高等教育にとっても、他人事ではあるまい。
 アルドリッジJr.著「アメリカ上流階級はこうして作られる」(朝日新聞社・二九〇〇円)は、莫大な財産を親から受け継ぐことによって地位を得た、アメリカの富豪たちの実像を描いたもの。ちなみに著者も、こうした人々の一員である。
 ウイットにとんだ文章と、自分を含む上流階級への、時には皮肉を込めた鋭いまなざしは魅力的だが、実はそれもレトリック。結局は、彼らがいかに有能で魅力的で博愛主義的な人種であるかを誇示することに多くのページが割かれている。米国がまぎれもない階級社会であるという事実とともに、それを支配している人々がいかに自信過剰で大衆蔑視の人々であるかを知るのに役立つ本である。

(1996.2月配信)

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