医師の卵に教育の充実を 毎日新聞科学部「大学病院って何だ」他

 大学教師は、主に研究業績に基づいて採用される。ここで問題なのは、優れた研究者が優れた教師だとは限らないことだ。実際、専門の研究テーマ以外は何も知らないという人は多い。そもそも学生の教育に関心のない人も多い。
 こんな教師に教えられる学生は災難だが、大概の場合は学生が多少、不毛な時間を送る程度のことで済む。しかし、これが医学部、そして大学病院だったらどうだろう。
 毎日新聞科学部「大学病院って何だ」(新潮社・一三〇〇円)は、最先端の医療機関と一般に信じられている大学病院の実像を描いたもの。
 大学病院には研究・教育・診療の三つの使命があるが、現状では研究ばかりが重視され、教育や診療は二の次にされることが多い。なぜなら、教授は研究論文に基づいて選ばれるからである。 論文をたくさん書くためには、一つの臓器を専門に研究するのが能率的だ。こうして患者を総合的に見る視点は失われ、患者を研究材料として扱う傾向も生まれてくる。
 若い医師の意識にも問題がある。志望理由のはっきりしないまま、ただ成績が良いという理由で医学部を受験し、医師になっていく若者たち。こうして見ていくと医療の問題が、大学や学校教育のあり方と密接に結びついていることがわかる。
 宮澤弘愛著「病い知らずが病気になると」(アドア出版・一五〇〇円)は、医療ミスによって大手術を繰り返すはめになった著者が、経験をもとに語る警告の書である。その恐るべき体験の数々については読んで頂くほかないが、やはりここにも教育の問題が関わっている。
 著者によると、現在の医学界は自信家の秀才が集まる聖域であり、他方、患者は自分の体について十分に教えられていない。未熟でごう慢な医師による被害は、この落差から生まれる、というのである。医師育成のための総合的な医学教育と、社会人のための医学教育。この両方の充実を図る必要がありそうだ。

(1995.1月配信)

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