学校の本来の姿 後藤正治著「リターン・マッチ」他

 日本の教育の最大の特徴の一つは、制度的には同等であるはずの高校が「エリート校」から「底辺校」まで厳しく序列化されていることである。だから子供たちにとって、高校進学は大きな転機になる。その中で定時制高校は、勤労者や退学経験者に機会を与えるという役割と「底辺」という位置との間で揺れている。
 後藤正治著「リターン・マッチ」(文藝春秋・一七〇〇円)は、定時制高校の教師と生徒の交流を描いたノンフィクションである。主人公ともいうべき一人の教師は、脇浜義明氏。定時制高校出身の彼は、生徒の希望を受けてボクシング部の監督になる。自分も高校時代にボクシングの経験があり、指導には次第に熱が入っていく。
 道のりは平坦ではなかった。生徒たちの多くは貧困な家庭に育ち、受験競争の中で学校からつまはじきにされ、「負け組」のレッテルを貼られて意欲を失っている。そんな生徒たちと生身でぶつかり、引っ張っていくことが、彼の教育活動の中心になった。そんな彼の姿に、著者は「学校」というものの本来の姿を見出そうとしている。
 本書を読む限り、著者よりもむしろ脇浜自身が、日本の教育に対する鋭い観察者であるようだ。定時制高校教師を長年務めながら評論活動を続けてきた佐々木賢のような例もある。今度はぜひ、彼自身の教育論を読みたいものだ。
 中場利一著「岸和田少年愚連隊」(本の雑誌社・一八〇〇円)は、少年時代の著者を含む「不良少年」たちの群像である。「底辺校」へ進学した彼らは、やがて他の高校とのあまりに大きな違いに気がついていく。
 青春ドラマみたいに楽しそうな高校生たちを見て、彼らも生まれ変わったらあの高校へ行きたいと思うようになるのだが、結局自分たちと同じような位置にある別の高校の生徒と暴力事件を起こして学校を追われてしまうのだ。面白おかしく書かれているが、「底辺」から見た高校の姿に、しばし考えさせられた。

(1994.12月配信)

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