日本社会の個々の側面を扱った書物の場合、日本人の書いたものより外国人の書いたもののほうがはるかに面白いことが多い。日本人がふつう気づかないような、新鮮な発見が多いからである。
メリー・ホワイト著「マテリアル・チャイルド」(同文書院インターナショナル・二二〇〇円)もそんな本の一つ。しかもその最新のものであることは間違いない。なにしろ、著者は一九八八年から調査を始めたといい、「アッシーくん」や「校門圧死事件」までが登場するのである。
テーマは日本と米国のティーンエイジャーの生態だが、記述の大部分は日本の中高生にあてられる。資料には様々な出版物やインタビュー記録のほか、作文や日記、飲食店の落書き帳やトイレの落書きまでが使われる。こうして描き出された日本のティーンエイジャー像は、日本人にはまねのできない鮮やかさだ。
とくに後半の、消費社会と子どもたちの関係を論じた部分が出色。著者は、マスコミや友人同士の情報交換を通じて大量消費の習慣を身につけた子どもたちに、消費社会の新しい担い手を見出す。消費の主人公になるとともに、子どもたちの間には購買力による階層化が進んでいくのではないか、という指摘は重要だ。
出版社に苦言を一つ。広中平祐介氏が監修者となっているが、おそらくこれは販売政策的なものであり、氏が適任とは思われない。現に、重要な誤訳や事実誤認がいくつか見逃されている。マーケティング書を装った帯カバーとともに、出版社の信頼を損うようなことはやめた方がよい。
大量消費社会の問題を正面から扱った新しい経済理論といえば、レギュラシオン理論である。山田鋭夫著「レギュラシオン理論」(講談社・六〇〇円)は、その平明で信頼できる解説書。ただ、著者が経済学者であるためか、説明が経済学としての側面に集中しすぎたきらいはある。経済学という枠をはみ出ようとするこの理論には、もっと多様な紹介のされかたが必要だ。
(1993.6月配信)