1999年10月に読んだ本

遠藤公嗣,日本の人事査定,ミネルヴァ書房,1999,3800円

畏友・遠藤氏による、日本の人事査定制度に関する初の本格的研究書です。小池和夫・青木昌彦の諸説の批判から始まって、制度の実態・国際比較・歴史的考察、さらには雇用差別の道具としての人事査定の機能まで、主要な研究テーマがひととおりカバーされていて、読み応えがあります。記述も平易です。補論では、小池和夫が文字通りこてんぱんです。小池さんって、いい加減な人なんですね。人事査定というテーマに関心のない人も、この部分だけは読んでみる価値があります。(10月1日読了)

雁屋哲・花咲アキラ,美味しんぼ72・料理の勘,小学館,1999,505円

やっぱり、出ると買ってしまいます。ただし今回は、適度の情報量もあって、比較的出来の良い作品が多いといえるでしょう。第4話「本物の出会い」では、松前漬けが作りたくなりました。第8話「トロロの深み」では、山芋の種類と違いがよりわかりました。(10月2日読了)

八代充史,大企業ホワイトカラーのキャリア,日本労働研究機構,1995,1942円

質問紙調査と聞き取り調査によって、大企業ホワイトカラーの昇進構造を明らかにしようとしたもの。どちらかといえば地味な研究で、一般的なイメージや有力な説から大きくはずれることがなく、1990年代はじめまでの大企業ホワイトカラーについての一般的な事実を確認するのに役立ちます。しかし逆転人事や抜擢の増加、「本格的専門職」制度など、新しい動向も押さえられています。女性社員の登用のためには、現場の上司任せでなく人事部門が主導的な役割を果たさなければならないという結論は、もっともだと思います。(10月5日読了)

朝日新聞社会部,「会社人間」たちの末路----次はサラリーマンになりたくない,ダイヤモンド社,1998,1400円

朝日新聞の連載で話題を呼んだ「気がつけばマリオネット」の単行本化です。鮮度が落ちているのは否定できません。やはり新聞連載というのは、連載そのものを時代の雰囲気とともに読むのがいちばんいいですね。項目による出来不出来の差も大きいと思います。文字通り「末路」と言うべき典型的な事例を、もっと掘り起こして欲しかった気がします。(10月13日読了)

木村涼子,学校文化とジェンダー,勁草書房,1999,2700円

新進気鋭の教育社会学者による、期待の新刊。この先少なくとも10年間、「ジェンダーと教育」研究の出発点となることは間違いありません。没理論の支配する日本の教育社会学に身を置きながら、自分の立場を「マルクス主義フェミニズム」と明確に言い切ったところも、えらいと思います。とくに第1章と第4章は、感動的なまでの力作です。(10月15日読了)

渡辺治,日本とはどういう国か どこへ向かっていくのか,教育史料出版会,1998,2100円

9月に読んだ『企業社会・日本はどこへ行くのか』の姉妹編。完成度は、こちらの方が低いようです。中曽根と小沢の役割を鮮やかに描き出したところは興味深いのですが、「支配層」という言葉を安易に使いすぎです。「支配層」の意味を明示せずに、「支配層の意図」「支配層内部の対立」によって政治の動きを説明するという、左翼政治評論の典型的な誤りを犯しています。それに丸山真男からの引用とはいえ「処女性を失っていた」(P.233)などという差別的表現を使ってはいけません。また、共産党議員団相手の講演を元にした第W章では、なぜか持論の「日本帝国主義論」を差し控え、ただ単に「軍事大国化」とだけ語っています。やはり、党に対する知的従属は改まっていないのでしょうか。重複が限度を超えて多すぎるのも気になります。(10月25日読了)

牧野富夫,「日本的経営」の崩壊とホワイトカラー,新日本出版社,1999,1900円

著者は、渡辺治氏などとは違って、文字通りの「共産党御用学者」と言っていいでしょう。タイトルと構成が面白そうだったので買いましたが、やっぱり、「トンデモ本」でした。一方では、政府・財界のすべての動きを労働者・中小企業者を収奪することを狙ったものとして批判する。他方では、ホワイトカラーは没落して労働者の統一と団結の条件がふくらんでいるとか、雇用不安と「個別管理」方式が、これまで労働運動のブレーキとなってきた企業意識・反共意識を弱めるといった、大甘の希望的観測を述べる。共産党系知識人の古典的スタイルを一歩も出ていません。理論的に見ても、新日本出版社の『社会科学総合辞典』を根拠にホワイトカラーを労働者階級と断ずるなど、知的怠慢が明らかです。(10月26日読了)

木下律子,妻たちの企業戦争,社会思想社,1988(原著1983),480円

定評のある本ですが、はじめて読了しました。社宅に住む妻たちが、会社から直接・間接に24時間の管理・支配を受けている実態を明らかにした、衝撃のルポルタージュ。家族・地域社会を含めての企業への従属を論じる、いわゆる企業社会論を準備した名著です。ただ、やや古いですね。最近の状況を知りたいものです。実態はいまでもまったく同じなのでしょうか。(10月28日読了)

脇坂明,職場類型と女性のキャリア形成(増補版),御茶の水書房,1998,3200円

地道な実態調査と、数多くの調査研究のサーベイを通じて、女性のキャリア形成の現状を解明しようとした本。仕事競争モデル、統計的差別理論、パート労働者に関するバッファー説と代替説など、経済学的な理論モデルと調査結果を結びつけようとする努力が(ややこじつけ的な部分もありますが)評価できると思います。著者はストーリーテラーとは縁遠いタイプで、地味なスタイルに終始していますが、結婚・出産退職慣行を扱った第5章、パートタイマーを扱った第6章、育児休業制度と男女の家事分担意識を扱った第7章は、かなり参考になります。男女平等的な職場の男性は家事分担意識が高いというのは、重要な知見ですね。(10月30日読了)