そよふく風に 小鳥の群は
河の流れに ささやきかける
ごらんよ あの空 しあわせの陽が
あなたの上にも ほほえんでいる

野ばらのかげに 小鳥はいこい
森の泉も しずかに眠る
ごらんよ あの河 ささやく声が
わたしの胸にも よびかけている

作詞 水野汀子   
作曲 ギイ・ベアール
編曲 小森昭宏   


  昔なつかしい この歌のメロディー が、 1957年のフランス映画 「L'eau Vive」 の主題曲であることを知る人は、 もう少なくなったのかもしれません。 この映画は、 明るい農村風景が美しい南仏プロヴァンス地方を流れるデュランス河を舞台に、 ひとりの少女の心の成長を描いた佳作です。 主題曲の方は一般に「河は呼んでいる」というタイトルで知られていますが、映画の邦題は「河は呼んでる」となっていました。

  恵みの河ではあるけれど、 暴れ者でもあるデュランス河は、 度々氾濫して流域の農民に大きな損害をもたらします。 フランス政府は治水のために、 この河に大きなダムを築くことにしました。 でも、 ダムを作ろうとすれば、 たいていひとつふたつの村が湖底に沈みます。 立ち退きを余儀なくされた人たちには、 国から賠償金が支払われるわけです。
  ヒロイン・オルタンス( Hortense )の父も大地主で、 3000万フランの賠償金を受け取るのですが、 その金をどこかに隠したまま急死してしまいます。 オルタンスは一人っ子で、 母も既にいませんが、 未成年の彼女は、 すぐに遺産を相続することができません。 親戚一同は、 成人する日まで3ヶ月ずつ交代で彼女の面倒を見ようという申し合わせをします。 ここから行方のわからない大金をめぐって、 物語が展開していきます。
  親戚の家をたらい回しにされて、 いやな思い、 辛い経験をし、 恐ろしい目に会いながらも、 オルタンスはついに成人となる日を迎えます。 無事に遺産を相続した彼女は、親戚たちの利己的なふるまいを許してやり、 彼女自身は、 一族の嫌われ者ではあるけれど、 大好きなシモン叔父の許に身を寄せるのです。

  この映画に出てきたダムは実在し、 東西およそ20kmにも達する大きな湖 なので、 ちょっとした世界地図には載っています。 映画は工事の進行に合わせて、 三年の歳月をかけて撮影されました。 カンヌ映画祭で高い評価を受ける一方、 主題曲はフォークソング風のシャンソンにアレンジされて、 シャンソン歌手でもある作曲者ギイ・ベアール( Guy Beart )自身のギター弾き語りで大ヒットし、 仏ディスク大賞に輝きました。 どちらかというと、 映画より主題曲の方が有名になった感があります。 日本語の歌詞も付けられ、 NHKの「みんなの歌」で広く知られるようになりました。

  一方、オルタンスを演じたパスカル・オードレ( Pascale Audret )は、 まさしく烏の濡れ羽色といってよい黒髪と、 澄んだ美しさがまことに印象的な女優でしたが、 残念ながらこのデビュー作以外には、 さほどすばらしい作品に恵まれず、 日本ではすっかり忘れ去られてしまいました。 Internet Movie Database によると数年前まで映画やTVに出演していたようですが、 私がこのページを書き始めて 5ヵ月後の 2000年7月に自損事故で亡くなりました。 享年63歳でした。 ご冥福を祈ります。




Julie Dreyfus
( 画像提供/市村氏 )
  ところで、「Pascale Audret のアルバム」をご覧いただいた方の中には、 この女優、 どこかで見掛けたことがある、 と思われた方もいるのではないでしょうか。 実は彼女、 つい先頃まで日本のマスメディアによく登場していたジュリー・ドレフュス( Julie Dreyfus )嬢のお母さんなのです。 ジュリーさんも、 お母さんそっくりの美人でした。 何かの対談記事だったと思いますが、「母が毎日電話の前で、 仕事が入るのをじっと待っている姿を見て、 私は女優になるのだけはやめようと思った」というような意味のことを、 ジュリーさんが語っていたのを興味深く読んだ記憶があります。 彼女、 最近は全く見かけませんが、 フランスに帰ったのでしょうか。
  因みに、主題曲の作曲者ギイ・ベアールは、 映画「美しき諍い女」などで知られる女優エマニュエル・ベアール( Emmanuelle Beart )のお父さんです。

Last Update : 17 Aug 2001
Created : 6 Feb 2000

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