使えるネット書店はどれか

-ネット書店の品揃えを見る-
改訂版

片桐 裕恵
E-mail:giri@chiba.email.ne.jp
home:http://www.asahi-net.or.jp/~FG4H-KTGR/

改訂について

Amazon.com の大成功から早5年。日本でもネット書店というのは日常のものになりつつある。紀伊国屋Bookwebに始まり、丸善、旭屋など大手書店が次々とインターネットで注文を受け付け、自宅へ配送するサービスを行い始め、1999年頃からイーショッピングブックスや、ISIZE BOOK、bk1など、書店を持たないAmazon型のネット書店も目立ちはじめている。

日本は世界でも有数の出版点数を誇る書籍大国である。ところが、実際のところ本はあまり売れていない。書店、出版社の閉店、倒産が相次ぐなか、これほどのネット書店が必要なのだろうか。特に、実際在庫を店頭で売ることのできる紀伊国屋のような既存書店のオンラインショップではなく、在庫をインターネットでしか売ることのできないAmazon型ネット書店は、既存書店で買える本を、既存書店と同じように売ったのでは、ネットワーク接続料と送料の分がデメリットになるわけである。

そこで、特にAmazon型ネット書店について、どのような在庫をどのように売っているのか、その特長を調べてみることにした。

まずネット書店を使うのはどういう場合だろうか。大きく分けて2つあると考えられる。ひとつは近くに(良い)本屋が無い場合。よく言われる配本の問題も含めて、特に地方都市では欲しい本が手に入らないことも多い。また消費者の少ない地方都市は需給関係から言っても、やはり書店の絶対数は少ない。そういう場合に、ネット書店なら欲しい本が家にいながら買えるのである。これを使わない手は無い。

もうひとつは、あちこちの本屋を探しても目当ての本が見つからない場合。何かの賞を取ったり、テレビで紹介されたりという宣伝効果によって急激に売れた結果、品薄状態になった本、あるいは本当に流通量の少ない専門書など、この本が欲しいと思っても、その近所の書店では手に入れにくい場合。本屋で注文してもネットで注文しても同じなら、家まで届けてくれるネット書店を選ぶ人もいるに違いない。

つまり、ネット書店を使う人は、「この本が欲しいのに、すぐ手に入らない」という人が多いと考えられる。また、彼らの欲しい本は、「話題になっていて、読んでみたいけど無い」あるいは「元々流通量が少ない専門書で書店に置いてない」などが多いのではないだろうか。話題になってもいないような本なら、名指しで欲しいとも思わないだろうし、その辺りで手に入る本なら、そちらを買ったほうがどう考えても早いからである。以上の考えがそれほど的外れではないことは、こちらでも確認することができる。

以上の点からネット書店に求められる機能は、

1. 目当ての図書が検索でき、在庫状況がわかる
2. (送料・書籍代が)安い
3. 納品までの時間が短い

などではないかと考えた。

ネット書店を利用する人は、大抵「目当ての図書」が存在する。電話代の高い日本で、ぶらぶらとネット書店を回るという使い方はあまり考えられない。それにそうした使い方なら実際に眼で見られる大型書店のほうが適している。また、どうしても手に入れたい本ならともかく、高い送料を取られてしまうとやっぱり足で探してみようかなという気になってしまう。あるいはよほどの本好きでもない限り、諦めてしまうかもしれない。さらに、どこのネット書店にもあるなら、やはり早く届くほうがいい。私は書店で、「注文されますと大体3〜4週間かかります」と言われて、客が「じゃあ要らない」と言っているのを何 度も耳にしている。図書館でも同様だ。「○日までに納品されなければキャンセル」と書かれた注文書をたまに目にする。また「図書館経由で洋書を頼むことはもうしない。Amazonの方が安いし早い」と公言する先生もいる(ちなみに図書館の場合、書店の段階で値引きが効く)。特に専門書の場合、今読まなくては意味の無いものも多いだろう。話題書も同様。1ヶ月も経ってようやく来るなら、何もネット書店に頼まなくても、増刷されたり、配送されてきたりしてその間に本屋に並んでしまうかもしれない。

2.に書籍代が安いというのを上げた。本来なら、これが一番ネット書店にとって効果的な宣伝になるはずのポイントである。実際Amazon.comは、最大40%引きが話題となって広まったといっても過言ではない。しかし日本とアメリカは出版流通事情が異なる。再販売価格制度というしばりによって、書籍を簡単に値下げすることはできない。つまり、原則的に書籍が安くなることはなく、その点でリアル書店と競争ができるわけではない。今回は一応上げはしたが、安いというのは送料がタダになるという面だけを考えている。

余談だが、例え再販制度が無かったとしても、日本のネット書店ではAmazon.comのような成功はありえないと思う。なぜなら、日本のネット書店が扱うのは基本的に日本語の本であり、全世界的に売れる英語の本ではないからである。非日本語圏の人間が日本語の本を買う可能性に比べ、非英語圏の人間が英語を買う可能性が圧倒的に高いのは自明の理である。インターネットという国境の無い世界を最大限利用できるAmazon.comに対し、日本のネット書店にはインターネットで書店を開くメリットが薄い。その上日本は土地代や人件費が異様に高い。いくら仮想書店とはいえ、いや、大量買取をして安く売るAmazon型だからこそ、土地代、人件費の高さは競争力にもろ影響すると考えてよい。もちろん国土の広さのために簡単に配本できないというアメリカの出版事情が追い風ともなっていることも考えると、Amazon日本版というネット書店はありえないのではないかというのが、私の考えである。*1

今回検証を行うにあたって、ネット書店を選んでみた。イーショッピングブックス、bk1、BOLとこのあたりで問題ないかと思う。*2 また参考として、この業界1位である紀伊国屋Bookwebを同時に検索した。

まずそれぞれの母体、特徴などを説明する。

紀伊国屋BOOKWeb (紀伊国屋書店)
URL:http://bookweb.kinokuniya.co.jp/
データ件数:150万件(ビデオ・CDを含む)/ 在庫の記載なし
手数料(配送料):480円
利用登録:会員制(入会金1500円)
決済方法:クレジットカード
その他の特徴:リコメンドサービス、仮想書店棚コーナー

bk1(株式会社ブックワン<TRC、日経BP、アスクル、富士通、日本経済新聞社、電通、NTTX出資>)
URL:http://www.bk1.co.jp/
データ件数:180万件 / 在庫約56万件
手数料:250円(9月30日まで無料)・7000円以上無料
利用登録:無料
決済方法:クレジットカード、代金引換宅配便(+130円)、JOYJOYポイント(一部)
その他の特徴:新刊先行予約、読者書評、当日発送、無料メールマガジン、ジャンル毎のコンテンツなど

イーショッピングブックス(イー・ショッピング・ブックス株式会社<ソフトバンク、セブンイレブン・ジャパン、トーハン、ヤフー出資>)
URL:http://www.esbooks.co.jp/front/books/index.zolar
データ件数:140万件
手数料:9月30日まで無料・セブンイレブンを利用の場合無料
利用登録:無料
決済方法:クレジットカード、セブンイレブン前払い、セブンイレブン代引
その他の特徴:セブンイレブン受け取り可。

BOL(ビー・オー・エル・ジャパン株式会社)
URL:http://www.jp.bol.com/
データ件数:150万件 / 在庫50万件
手数料:150円(キャンペーン中)
利用登録:無料
決済方法:クレジットカード、コンビニ・郵便局支払い
その他の特徴:ギフト包装、独占先行発売

以上の点を踏まえて、使える書店を評価するために、以下の方法を用意した。
まず、目当ての本を検索し購入できることを検証するために、専門書、話題書、ベストセラー、新刊などから10点ほどをあげ実際検索をかける。すべて私の勤める大学図書館で複数冊購入している一般的な本である。この書籍が、在庫にあってすぐ買える場合は5点、取り寄せによって購入できる場合は2点、検索してもヒットしない場合は0点という形で点数を付与した。今回はDB性能の検証ではないため、検索にはISBN、書名、著者名のうち検索しやすいキーを使用した。調査日は9月2日土曜日である。

no書名著者名出版者ISBN
1建築力学教程泉勝文鹿島出版会4306032914
2古代日本と南島の交流山里純一吉川弘文館4642023399
3情報と文献の探索 第3版長澤雅男丸善4621039431
4乳幼児発達心理学繁多進福村出版4571230389
5青年のひきこもり狩野力八郎, 近藤直司岩崎学術出版社4753300013
6DNAのらせんはなぜ絡まないのかニコラス・ウェイド翔泳社4881358154
7インターネット機械翻訳の世界宮平知博[ほか]毎日コミュニケーションズ4839903115
8中国食糧貿易の展開条件王楽平御茶ノ水書房4275017471
9五体不満足乙武洋匡講談社4062091542
10永遠の仔天童荒太幻冬舎4877282858
11個人的な体験大江健三郎新潮社4103036168
12アマゾン・ドットコムロバート・スペクター日経BP社4822241912

結果はこちら。
*こちらの結果は、あくまで調査日(2000年9月2日)時点のものであり、現状ではないことをご了承ください。

【個別評】
ベストセラー・話題本に強く、新刊に弱いbk1

在庫状況39ポイント、平均配送日数11日のbk1。全体としてみると成績は最悪。ところが、これがベストセラー・話題本に絞ると、ほとんど24時間〜3日で届く。例えばドラマでも話題の「永遠の仔」や、各種書評などでも取り上げられている「アマゾン・ドット・コム」は24時間以内に届くのだ。実際使ってみたところ、土日でも11時までに注文すれば、その日に届くというこのシステムはかなり評価できる。ただ、専門書は全滅。ほとんど「お取り寄せ」になっており、しかも配送日数が出ない。また驚いたことに発売直後の本が弱い。調査日の前々週に発売された「フォー・ユア・プレジャー」、前週に発売された「新宿鮫 風化水脈」どちらも「お取り寄せ」になっていた。以前恩田陸と検索して、既に読み終わった本が検索されなかったことを思い出した。恐らく元データを提供しているであろうTRC-MARCの新刊対応が遅いことが原因であると思われる*3。ネット書店としてはある意味致命的であるこの欠点を、書評やその他の豊富なコンテンツでカバーできるか、注目したい。

急いでなければe-shopping Books

在庫状況39ポイントはbk1と同じだが、平均配送日数が12日と1日遅いe-shopping Books。品揃えはほぼbk1と同じなのに、配送に最低でも4日かかってしまうe-shoppingは、bk1にも水をあけられた格好だ。しかし、e-shoppingのウリは、セブンイレブン受け取りが可能であることと、セブンイレブンを使う限り配送料が無料であること。ちなみに配送料が無料というのは、今のところe-shoppingのみであり、bk1も9月30日まで配送料は無料であるが、その後の送料設定によっては、e-shoppingのほうが有利になる可能性はある。ただ、bk1が対応できていない新刊に関してはOK。送料無料によってどこまでのアドバンテージを得られるかが楽しみなところだ。気になるのは、検索方式の貧弱さ。ISBNで検索できないのはここだけである。絞り込みが面倒な本の場合、ISBNは一発検索できるという点で便利なだけに、それができないのは痛い。

意外や意外、豊富な品揃えを誇るBOL。

在庫状況55ポイント、平均配送日数2日のBOL。在庫状況は紀伊国屋に匹敵、配送日数は完全に紀伊国屋を上回るこのサービス。しかも紀伊国屋でさえ無かった「古代日本と南島の交流」が48時間以内出荷になっている。面白いのは、「アマゾン・ドット・コム」が無いこと。いろいろ試してみたが、何故かヒットしない。もしや宿敵アマゾンだから(笑)?他にも、取り寄せというサービスが行われておらず、ヒットしない本に関しては無いも同然のデーターベースになっているのが長所となるか短所となるかは今後の動向によるだろう。つい最近では、キングの書籍を独占先行発売することでも話題となったりと、商売の仕方も明らかに既存書店に対抗した形をとっており、面白い。品揃えが不可思議なBOLは今後の動きに要注意。

やっぱり老舗、貫禄のBOOKWEB

そしてやっぱり紀伊国屋。150万件のデータベースをこの早さで動かすのもさすがなら、品揃えもやっぱり他を圧倒している。かろうじて「古代日本と南島の交流」のみ取り寄せになっていたが、他はすべて在庫あり、4日以内出荷可。実際4営業日以内に来ることは実証済みなので、専門書や他では手に入りにくそうな本は最終的にはここを探すのが得策と言える。しかも新宿本店、南店の在庫が確認できるので、近い人なら直接買いに行くこともできる。ただ老舗ということもあってか、会員制というのは敷居が高い。送料も480円とこれまた他を圧倒する値段。新刊は発売日に在庫有り表示がされる上に信頼性という意味では当たり前の値段なのかもしれないが、今後のネット書店の競争時代に入った場合、そのデメリットがどう出るかが気になる。

今回検索をかけたところ、同じ顔に見えていたネット書店も意外と違いがあることが分かった。今後はそういうメリットをどのように宣伝していくか、あるいは新しいサービスをどのように展開していくかがネット書店の分かれ目になるような気がする。消費者としては、別にどこで買っても同じ本なのであるから、その特長をつかんで効率よく本を手に入れる方法を覚えておくのが良いのかもしれない。私は注文してまで手に入れる本は急いでいないので、実はイーショッピングを贔屓にしているのだが、皆さんはどうだろうか。


*1 これについては、恐らく賛否両論あると思われる。ここで私が言いたいのは、Amazonのような形でのネット書店の成功は日本(の出版流通機構)では難しいのではないか、ということだが、逆に再販制度という縛りが追い風になるような例もあるわけで、ネット書店の商売方法によっては日本での成功もあり得るかもしれない。

*2 今回は在庫状況が出るという最低限のレベルをクリアした3つを選んでいるが、第2回があれば別の書店も加えていきたい。我こそはというネット書店広報担当者の方、是非ご一報ください。。。

*3 これは私からの言い訳というか、補足。私が言いたいのは、TRC-MARCが遅いのが悪いということではない。もともと図書館流通センターは図書館サービスを基本として発足された取り次ぎである。ある一定の質を持ったMARCと共に書籍が納品されるということは、特に目録作業に人員を割けない図書館にとってはありがたいサービスであり、目録の質を保つため、出版後に目録作業をするという主義も正しいことだと思うし、それによるタイムラグはある程度仕方のないものだと思う。しかし、検索することが目的である図書館用の書誌ではなく、商売するための目録にそれほどの質が必要かという問題は残る。あくまでTRC-MARCを使うという姿勢はどうなのだろうか。


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2000/09/17
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