Internationalな夕べ
-アキハバラ探検記-
その日(6/11)は、大学を出たときから何かおかしかった。それがインターナショナルな夕べへの序曲だとは誰が思ったであろうか(いや、誰も思わない)。

今週の金曜は、前から秋葉原に行こうと思っていた。つい先日届いたメールニュースがその発端である。あるプロバイダが、ソフトダウンロード専門のホームページを作成したというそのニュースを見て、私は早速そのホームページにアクセスしてみた。特にダウンロードしようと思うものはなかったが、私が目を引いたのはそんなことではない。ソフトのダウンロード時間目安が、モデム速度毎に載っているのだが、なんと私が使っている28.8Kの表示がないのだ。まだまだ現役と思っていた28.8k。しかしそれは私の勘違いだった。この出来事は、そろそろモデムを買い換えるか、ISDNにしようかと迷っていたわたしにとって、まさに天の啓示のようなもの。さっそく普段はめったに見ないパソコン雑誌なんかを立ち読みしたり(買わないのがミソ)、職場にあるパソコン拡張関係の本を読んだりしてみる。ところが、世の中はAIBOとWindows2000にしか興味がないらしい。モデムのモの字も見つからない。と言いつつも、いろいろな記事を見る内、今度はハードディスクが欲しくなってきた。私の愛機Aptiva785(メモリだけ増設)は、いまだに1.6GBのHDDしか積んでいない。空き容量も、そろそろ危険領域に入りつつある。しかも2万程度で10Gぐらいのものが買えるようだ。2000年を前にして本体を買い換えるのも馬鹿くさいし、そんなお金はない。それならちょっと損を覚悟で、HDDも増設してしまおう、そう思って秋葉原に行く算段を立てていたのだ。

まだ外も明るい17時半頃。1日の仕事を終え、私は大学の正門前で信号待ちをしていた。国道である正門前の通りは、自動車の交通量も多く土日の早朝でもない限り、 絶対に信号無視ができない。しかも横断歩道のみの信号機のせいか、かなり赤が長い。ぼーっと突っ立っていると、後ろから声をかけられた。

「あのーちょっとすみません」

ふと顔を上げると、大学生だと思われる女性が立っている。私は話し掛けやすい顔をしているのか、いきなりこうして知らない人から話しかけられることが多い。こういう話かけ方をするのは、大抵見習い手相見か何かを祈ってくれる宗教勧誘である。手相見=宗教勧誘という噂もあるが、その話はこの文とは関係がないので、ひとまず置いておく。とりあえず、私はいつものように話しかけられて身構えた。

「チョット、イイデスカ?」

ちゃんと聞いてみると、顔は日本人と全く変わらなくても、アクセントがおかしい。明らかに外国人だ。彼女の必死の形相に、私は別の意味であとずさる。

「ロッポンギーハ、ヤマテセン、デスカ?」

なんだ、単に道を聞いているだけのようだ。安心した私は、六本木なら歩いていけますよ、という意地悪な返答を思いついたりもしたが(実際私は大学時代、六本木まで歩いたことがある)、急いでいる彼女の様子を見て弱気になり、日比谷線を使う六本木への行き方を教えてあげた。

「ドモ、アリガト」

彼女は手を振って、足早に去っていった。私は良いことをした、と勝手に思い、意気揚々と秋葉原に向かう。

平日の夕方に秋葉原に行くのは初めてである。秋葉原は平日でも休日でも対して変わらないのだ、ということを思い知らされた。特に金曜の夕方ということもあってか、人が多い。日本人だけでなく、アジア系、イスラム系、アメリカ系(?)など人種もさまざま。同じ日本人でも、普段はあまりお目にかからない人が多い。髪を結わえているから女性かと思うと、大抵男性である。ちょっと怖い

私はある電気屋に向かった。電気屋のカウンターのお兄ちゃんは、「ハードディスクが欲しい」というど素人の私に、いろいろ懇切丁寧に教えてくれた。10GB以上なんていうのも沢山あるが、やはりBIOSのアップデートをしないと、認識してもらえないらしい。「BIOSのアップデートをすればいいんですよ」なんて、お兄ちゃん軽く言ってくれる。しかし慎重派の私は、今のままで最大限のもので良いと主張し、散々迷った挙げ句、Aptiva785でも動作保障という6.4GBのHDDを購入した。モデムも見せてもらって、こちらは「売れ筋」と勧められた一番安いのを買った。

案外簡単に買い物が済んでかなり上機嫌のひろえ。紙袋を手にさげて、駅に向かった。すると横断歩道の向こうにある、ラジオセンターの一角が目にとまる。携帯電話が大量に陳列されているのだ。ふと母親が、「あんたのPHS、全然通じないんだから、携帯買ってきなさい」と言っていたのを思い出す。私が今持っているPHSは、随分前にインターネットの懸賞で当たったもので、最近充電の状態が悪く、うまく電源が入らない。大手電機メーカーで電池の研究をしている先輩に見せたところ、「これはもう古すぎ。本体ごと買い換えたほうが安いよ」と言われた代物ある。しかし、PHSの通話料金が月30円である私にとって、携帯を買うということは暴挙に等しい。それでもPHSよりも携帯の方がつながりやすいのは確かで、公衆電話が減っているのも周知の事実である。安いのなら買ってみようかと思って近寄ると、早速店員が寄ってきた。

「携帯ですかー? J-PHONE? cdmaone?」

店員さん調子がよい。よく見ると真田広之をちょっと若くした感じ。私が安いのが欲しいんですけど、と言うと、 「それならこれなんかどうですか?」 とちょっと古目のT社製携帯を取った。価格は3000円。買い物がすんなり行ってちょっと気の大きくなっていた私は、3000円ならいいかと思い、あっさりと購入することにした。すると真田似の店員君は、カードが必要だと言う。カードを出して渡すと、彼はどこからともなく契約書を出し、それに記入していてくださいと言って、どこかへと消えていった。

私は字を書くのが早い。自称格闘流と言っている筆さばきは、せっかちな自分に合っている。あっという間に契約書を書き終えると、もうすることが無くなった。ふと右をみると、アジア系らしい外国人カップルがデジカメを勧められている。左では、グレート義太夫似の店員が、アメリカ人らしいおばちゃん二人連れに、英語で話しかけられていた。義太夫どうする、と思っていると、なんと英語で答えている。すごい。私は「国際都市アキハバラ」という言葉を思いだした。周りの怪しい景色も手伝って、ここは本当に日本なのか、という気分になる。ぼーっとしていたのは4,5分だっただろうか。真田君はどこへ行ってしまったのだ、と思っていると、一台のチャリンコが目の前に止まった。

「お待たせしました〜」

なんと真田君は、チャリンコでどこかへ行っていたのだ。確かにこんな店では倉庫スペースを取ることはできない。どこかに倉庫があるのだろう。しかし、そこまでチャリンコで行かなくてはならないとは・・・。呆然とする私にカードを返した真田君は、留守電サービスなど、細かいところを私に説明しながら、次々と数字を書き込む。さて、その契約書が完成し、物をもらえるのかと思ったら、今度はその契約書を目の前に陳列されていたFAXに入れているではないか。そこには10台程度のFAXが並べられていたが、なんと一番下のひとつは、電話回線につながっているものだったのだ。FAXを置いた上に商品を並べるという、究極の省スペース。いや、もしかすると、使っているFAXも商品なのかもしれない。売れたら、また別のものを電話回線につなぐのだろうか・・・アキハバラ、おそるべし

チャリンコとFAXのダブルパンチで声も出ない私に、引き換え券を渡す真田君。「電話登録に20〜30分かかるから、どこかで時間をつぶしていてください」と言う。20〜30分かー。さすがの私もちょっと疲れた。気付くとやっぱりHDDとモデムは重い。確かミスドがあったよなーと思って、そちらの方へと歩き出す。ちょっと行くと、ミスドが見えてきた。う、遠い。多分歩いても2分程度の距離だろうが、重みで腕が痛い私にとっては、1kmにも見えた。やっぱりもっと駅の近くにいよう、そう思って振り返ると、目の前に小さいコーヒーショップ。あ、ここでいいやと思って、さっそく店に入る。

アイスコーヒーを飲んでいると、今度はアジア系の4人連れが入って来た。やっぱりアキハバラは外国人が多いんだなーと思う。女の子2人は席にすわって、男の子2人が英語で注文している。普通この程度の店で、いきなり英語を話す客が来たら、店員はしどろもどろになるだろう。しかし、やっぱりアキハバラ。若い店員はなんなく英語でこなしている。よく見ると、壁に貼ってある手書きのメニューも、すべて日本語・英語対応。やはりおそるべし、アキハバラ

しばらく本を読んで、戻ってみると、真田君も義太夫も客の応対をしていた。誰かいないかなーと見回すと、ぬっと現れたのが東京電力の今井君のような店員。ちょっとびっくりしたが、無事携帯をもらって帰る。
しかし荷物が重い。HDD、モデム、携帯そして元々持っていた荷物。島田荘司や京極夏彦で鍛えた腕も、この重さには悲鳴を上げる。一瞬『屍鬼』を持っていなかったことを神に感謝した。買ったばかりの携帯で家に「車で迎えに来て」電話をかけることになるとは、誰が予測しただろうか・・・(いや、誰も予測しない)。

さて、家に帰ってきて、さっそくコンピュータにHDDを取り付け始めた。しかし、本当にど素人の私、信号ケーブルを逆につける、ディスケットドライブの信号ケーブルをはずしてしまう、マスターとスレーブを間違える・・・etc.、と考え付く限りのミスをして、悪戦苦闘。よくコンピュータが壊れなかったと思う。やっと動くようになったものの、結局起動ドライブの変更はできなかった。・・・自作への道はまだ遠い。

((c)1999 かたぎり・ひろえ 6/12/99)

こんな本どうでしょう・・・
アキハバラ』(今野敏著・中央公論新社)