大阪ファンタスティック


その1 出発まで(”取っちゃった旅行”の巻)

 僕は以前さる女性と、ほとんど初対面に近い状態の時、趣味としての旅行などの話題をした際に彼女に「貴殿は今まで海外へ渡航の経験はおありや?」という意の質問を投げかけたことがあった。
 するとその女性は俄に気色ばみ、彼女から「貴君の先程の御質問は、今時の女性に対し大変無礼な質問である」という意の指摘を受け非難されてしまった。
 彼女の主張において、その反駁するところは「最近の女性は自分ほどの年齢ともなれば海外の一つや二つ、二つ三つなど既に経験済みである。手始めとして昨今の諸女史におかれては各大学の卒業時などに卒業旅行などと称し大抵の場合海外渡航を選択している。貴君はそんな事情も存ぜぬか?いとくちをし。」(なんで和言葉になってんだよ)との意のものであった。ちなみに彼女は当時30代後半であった。
 昨今の女性にとっては海外旅行経験なぞ至って当然のことらしい。
 彼女によれば先程の僕の質問は「貴殿の海外渡航経験は今までに『何度』であるか?」といった経常的数量確認形式のものでなければいけなかったらしい。

 もしかしたら僕は、30も過ぎ女性としての成熟度もいっそう増して来た女性に対し「貴殿は今まで男性経験はおありや?」という意の質問と同レベルの質問を投げかけてしまうという失態を犯してしまったのかもしれなかった。
 従って僕の質問は「貴殿の男性経験は今までに『何度』おありや?」という形式の問いかけでなければいけなかった・・・のだろう。ん?、それだってかなり失礼な質問だって?。

 いやはや、旅行の話をしようというのに、のっけから下卑た内容になりかけ非常に申し訳ない。
 彼女の主張と僕の失態がもう少しわかりやすくなるよう、若干クダケタ風に比喩置換した表現したつもりだったが。失礼つかまつった。
 それにしても旅なのに下卑・・・、タビなのにゲビ・・・ちょっと掛った・・・キュッ、キュッ、キュッ(ちびまる子ちゃんの友人でお笑い好きの野口さん風に自分で言って自分で笑う音)。

 再度、失礼。

   *   *   *

 ともあれ、かように最近では海外旅行すら当然のこととして一般大衆に浸透している現状である。
 僕などには旅行において何が当然で、どこレベルが水準なのかは良くわからぬが、以前自分は明らかに一般大衆の水準以下であったと痛烈な認識を否が応でもせざるを得ず、幼心を傷めた記憶がある。

 これは遡ること数十年前・・・ハッキリ言うと1970年、日本において世界万国博覧会、通称「万博」が開催された時であった。テレビや雑誌などでも万博の話題で持ち切りであった。
 当時僕は小学生であったが、なぜか僕の回りのクラスメートには万博に家族で行ってきたという者が多かった。
 万博に行ってきた想い出を語る友人を横目で見つつ、万博なぞワシらのような下々の人間にゃあ関係ねえ絵空事なんじゃと自分に言い聞かせ、誰かの土産の「太陽の塔」のミニチュアを毎日侘しく眺めていたのであった。
 実際の所、僕の家庭は万博に興味が無かった訳でなく、今では大人数とも言える貧乏家庭で両親とも貧乏暇なし状態だったから行きたくても行けなかったのである。今でもその頃を思い出す度に僕は枕を涙でグッショリ濡らすのだ(ウソつけ、ほとんど覚えてねえくせに)。

 当時この万博は大阪で開催された。
 この頃から僕には潜在的に大阪万博コンプレックスのようなものが植えつけられてしまっていたのかもしれない。

 かくして今や女性が海外旅行当たり前と言う時代に、僕は日本有数の大都市大阪に未だに足を踏み入れる機会が無いままきてしまった。大人になってから関西方面には度々訪れていたのであるが、なぜか大阪はいつも素通りしていた。奈良・京都には行くのに、なぜか大阪はパスなのであった。これでは関東には良く行くのに、鎌倉横浜だけ行って東京には行かない、というのと同じである。ビートルズは聴くけど「イエスタデイ」は聴いて「ヘイジュード」「抱きしめたい」は聴かない、というのと同じである。女性は好きだけど、オッパイの・・・、ん?、も、いいでスカ?、そうスカ・・・。

 勿論特に大阪が嫌いという訳では全く無かったのであるが、かといって敢えて特に行こうとしなかったのは、もしかしたら前述のこの少年時代の万博コンプレックスがあったからでは無かろうか?などと考えていた今日この頃であった。

 年齢も中年と言うカテゴリーに括られつつある今、もうナントカコンプレックスなどに縛られ何かの行動を規制されるというような馬鹿げた状態からは卒業せねばいかん、大阪に訪れ、今や大阪を通り越して”海外旅行”にまでレベルアップしてしまっている一般大衆の水準に近づかねばいかん。
そんな意識が僕の中に芽生えて来た。

 考えてみれば大阪は僕の好きなもののメッカである。「お笑い」「タコヤキ」「商店街」。行かない理由などもう何も無い。
 思い出したが、風俗産業などは大阪が発祥のものが多いと聞くし、かつて山下達郎がブレイクし出したのは大阪のディスコからだったとも聞く。大阪人は先見の明があるらしい。大阪のそんなところも興味深い。
 それから大阪の海は哀しい色らしい。悲しみをみんなここに捨てに来るから、らしい(上田正樹の歌じゃねえかよ!やっぱ中年だね。)。
 それから大阪のベーブ・ルース(*1)選手は王選手みたいらしい(ん?、それまさか、”Hold me tight 大阪Bay Blues”のボキャブラ(”王みたい。大阪ベーブ・ルース”)じゃねえだろうな?!)。そんなところも興味深い(何がだよ!)。

 ともあれ、そんな僕が大阪と言えば行ってみたいと思い付いたのが、笑いの殿堂吉本興業の”なんばグランド花月”なのであった。”吉本新喜劇を生で見てみたい!”という思いは前々からあった。今回は丁度いい機会だ。

 ここからの行動は僕にしてはかなり素早かった。
 インターネットで吉本のページを探し、自分でもあれよあれよと言う間にチケット予約、後日チケットが届くとなんと最前列の席だったという実にスムーズな流れであった。
 これで既成事実が出来たから、もう行かない訳には行かない。ほとんど「出来ちゃった結婚の手法」を用いた旅の準備である。
 「出来ちゃった結婚」ならぬ「(チケット)取っちゃった旅行」のプロローグは、以上のような経緯で始まった。

 蛇足であるが、この旅行を決めた頃、NHKでは連続ドラマで「ほんまもん」というのをやっていた。
 職場で昼休みに休憩室へ行くと、テレビでいつもこのドラマの昼の再放送が流れていた。この中で、ちょうどタイムリーに大阪の黒門市場という場所が出てきていた。
 更にそのドラマの前の、やはりNHKの「ひるどき日本列島」という番組でも、ちょうどその頃一週間程タイムリーに大阪の特集を放映していたことがあった。
 不思議ノリ大好きな僕が、このタイミングの偶然の一致を神の「天啓」と取らぬわけが無い。
 もうほとんど神が「哀れな中年よ、汝、大阪へ行け」との給っているに決まっている、そう決めつけたことは言うまでも無い。
 こうして「取っちゃったチケット」と「天啓」という強力なバックアップ(?)もあり、なんばグランド花月観覧は決定した。

 あとせっかく関西に来ついでに、奈良の明日香に寄って秋の飛鳥路を写真に収めてこようと思いついた。
 今頃の明日香はどんなだろうか?。一人旅の美女はいるだろうか?。誰かが僕を待っているかもしれない(今回も邪心満載かよ)。
 晩秋の飛鳥川のほとりに一人佇む美女の姿・・・(ん?また勘違い小芝居始まったか?)。寂しげな背中から、この旅が傷心の旅であることを感じさせる憂いが漂う。モテナイ独身中年(僕のこと)は、そっと近寄り声をかけた・・・。「お、お嬢さん・・・。駅はどっちなんでしょ?」(オマエが迷ったのかよっ!)。

 冗談はさて置き、今回は吉本新喜劇・晩秋の飛鳥の二本立てでお送り致しまーす。イタチマーチュ。<----タラちゃん、でお願いします。

続く。

●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  キリンジ:「Music!!!!!!! 」(「Fine」)収録
(*1):ベーブルース【Babe Ruth】・・・”(本名 George Herman R.) アメリカのプロ野球選手。22年間に通算714本の本塁打記録を残す。(1895〜1948)”「広辞苑」より



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