強力First Touch!
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平田裕香・ビデオ「First Touch」発売イベント
2002年6月23日(日) 書泉ブックマート 14:00〜
 
 中年になると、若い女性に好意を寄せることに、なぜか罪悪感を抱いてしまいがちだ。
 通常男性40ともなれば、結婚し一家の大黒柱としての確固たる地位を築いていたりするもんだ。
 故に、若い娘にウツツをぬかしている場合では無かろう、というのが世間一般の見方であろう。
 では結婚せず一家の柱でも無いモテナイ独身中年である僕のような輩はどうなるのか?。
 上記理屈からいけば、若い娘にウツツをぬかしてはいけない理由・障害は無い、すなわち”若い娘にウツツをぬかして可”ということになりはせんか。

 などと屁理屈をこねくり回しつつ、僕は東京神保町の「書泉ブックマート」に向かった。
 平田裕香ちゃんのビデオ「First Touch」の発売イベントがあるのである。

 中年男性若い娘へのウツツ、といっても、それが芸能人、アイドルに対してとなると、更に罪悪度は増す。
 いや、罪悪度などと言えば、どこかプレイボーイじみた影すら漂わせるくらいの感もあるが、そんなものは無く、罪悪度というより、もはや哀切度、といった方が良い。
 はっきり言ってしまおう。そうです。アイドルのイベントに赴くモテナイ独身中年、恥ずかしいです、哀しいです。いいんです。そうするしかないんです。

 かくいう僕は好きな芸能人の女性は数多い。モーニング娘。を初めとして、数え上げたらキリが無い。
 この平田裕香ちゃんは、その中でも特にお気に入りなのである。

 こんなアイドル好きの僕でも、ちょっと救いがあった。
 我が崇拝する漫画家、そしてエッセイストである東海林さだお氏も、ちょうど僕と同じ年齢の頃、当代きってのアイドルグループだった「キャンディーズ」への熱い思いを込めて、その解散コンサートの模様を綴った「バイバイキャンディーズ(「ショージ君の東奔西走(文春文庫)」収録)」なる名品を上梓なさっておられる。
 これで僕は勇気づけられた。
 オジサンでもアイドル好きでイイんだ!。

   *   *   *

 イベントは午後2時からである。イベントといっても実情は握手会である。
 僕は2時ギリギリに到着した。すでにかなりの行列ができあがっている。大通りに面しているので人通りも多く、この列に加わるのは、かなり恥ずかしい。
 一応整理券があるので、多少遅く行っても順番は気にする必要は無い。
 只その場に居た係員が「200番までの方はこちらにお進み下さい」の声に、200番台だった僕は舞い上がっていたのか、自分達が呼ばれたと思って、一緒に付いていってしまった失態があったことは一言付け加えておこう。

 それにしても恥ずかしい。
 行列、というと、僕はすぐ「配給」となってしまう。配給=恵んでもらう=恵まれない=哀れ、という等式が即座に脳裏に浮かび上がる。
 哀れな独身男性達が衆人の視線にあからさまに晒されているのである。モテナイ独身青年ショー、いやショーなどという立派なもんでは無く、モテナイ独身青年陳列会、モテナイ独身青年陳列露天、いや売物でも無いから、モテナイ独身青年ブチまけ、である。
 できれば終始VIP待遇でお忍びで事を行えればいいのに、とつくづく思う。ジョン・レノンとオノ・ヨーコは、かつてお忍びで日本の軽井沢に来ていたそうだが、確かに僕らには全然わからなかった。
 僕も衆人には全然わからない内に、コッソリ平田裕香ちゃんに会いたいもんだ。
 でもそれが全くできない所に我々モテナイ独身一般青年の哀しさがある。
 僕らはやることなすこと常に哀しいのだ。

 行列を見渡すと、ほとんど男性であるが、極まれに女性が混じっている。もしかしたら裕香嬢の御友人なのだろうか?。だったら是非ともお近づきになりたかったのであるが、そんな大胆な行動、哀しいモテナイ独身中年、勿論できるハズも無い。

 中にはファンクラブか何かの集まりであろうか、グループで来ている者達もいる。モテナイ独身ロンリー中年と違って、こういう人達は強い。大声で談笑し、何やら平田嬢の情報などを交換しあっていたようだ。
 ちょうど時節柄か、ワールドカップの日本代表のユニホーム着用の上、このイベントに臨んでいる者もいた。何かをあやかりたかったのであろうか。

 時刻は午後2時を何分か周り、ようやく先頭集団に動きが見られたようだ。ビルの中に平田ファン軍団が少しづつ入っていった。会場、といってもビル1階のほんの小さいフロアで、握手をした後は、野郎共はトコロテン式に押し出されていく。
 この日はオプションで懸賞があり、整理券の番号がそれに当たると”イベント限定トレーディングカード”が貰えるようで、時折会場から拍手が聞こえてきており、たぶんそれに当たった人達だったのだろう。ちなみに僕は勿論ハズレた。

 相変わらず待ち行列組は、大通りの衆人監視に晒されており、変な緊張感が漂う。きっとこうしたアイドルファン軍団、それも行列は、一般市民には異様な有り様に映ってんだろうな、と肩身が狭くなる。
 時折通るバスの乗客の中に、こちらを見ながら、なぜか”けしからん!”といった表情を残していく老人もいる。
 僕はそうした視線を避けるべく、うつ向いて背中を丸め、ウォークマンの音楽に集中する。結構苦しい姿勢で辛い作業である。

 やがて待ち時間も1時間半程が経過した。僕の順番はまだまだだ。
 普通の路上なので、当然のことながら便所も無い。只只順番を待ち只只立ち尽くすのみである。
 途中から立ってるのも我慢の限界が来てしゃがみこんだのであるが、それでも固定した姿勢を続けるのはシンどいので、定期的に体をクネクネと動かして姿勢を変える。全てがやはり哀しい。
 折しも天気は曇り。これで雨になったら目も当てられんな、などと最悪の事態すらイメージされてきてしまう。

 疲れと恥ずかしさで、いつしか怒りが込み上げてきた。ふと「あれ?何しにここに来たんだっけ?」と、当初の目的を忘れそうになりさえする。
 それで思い直し、「そう、ワシャ今日は裕香ちゃんに会いに来たんじゃ。晒し者になりに来たんじゃないんど。ここは一つ頑張らにゃあいけんぞ、ワシ。ん?頑張ってどうすんじゃ?何を頑張るんじゃ?」みたいな、とりとめのない自問自答を繰り返すのであった。
 僕近辺の200番台チームも疲労の色が見え始めたようだ。各々勿論知り合いでは無いが、整理券番号が若い為に待ちでさほど苦労も無く既に裕香嬢にまみえることのできた熱心なファンチーム、から取り残された者達の奇妙な連帯感みたいなものが漂っていなくも無かった。
 どうも競争率が激しく高いオネエチャンのいるキャバクラに行き、その子を指名し自分の席についてくれるのをヒタスラ待つ客、といった趣も無きにしも非ずであった。

 事を済ませ会場から意気揚々と出てくる者達は口々に印象を述べあっていたようだが、それを聞いていると、裕香ちゃんは結構一人一人に時間を割いていてくれるらしい。ありがたいことである。
 それを裏づけるように、会場の外にいたスタッフが会話をしているのを小耳に挟んだら、やはり”平田さんのイベントは長い”のだそうだ。それはなぜかというと”平田さんはそれだけファンを大切にしている”ので”一人一人に時間がかかる”からだそうだ。平田裕香嬢のお人柄が偲ばれるのである。

   *   *   *

 待つこと二時間、ようやく僕にも順番が回ってきて、会場のフロアに入ることができた。
 中で順番待ちをしている間に、初めて生平田裕香嬢を拝むことができた。
 ひときわ清浄な気に包まれた裕香嬢を遠巻きに見るのは、さながら滅多に開帳しない国宝の観音様でも拝観するかのような気分であった。

 そして握手もついに僕の順番。
 平田嬢を正面にし、御手を握らせて貰う。
 僕は、貴殿に会えたこと至上の喜びとなっていること、貴殿のHPに上梓せらるる日記は必ず拝見していること、を表す意の旨二点を、なるべく淀みないように述べた、つもりだったが、緊張のせいかどうもギコチないセリフになってしまった。
 裕香嬢は僕のようなモテナイ独身中年に優しく握手をなさりながら、丁寧に謝辞を述べてくれた後、気候が変わりやすいので健康には十分留意するようにとの意の御訓示を賜わってくれた。どうも天皇陛下の園遊会じみた、ありきたりなやり取りといえばありきたりなやり取りではあったが、生平田嬢直々の御訓示とあれば、その価値は何万倍にも上がる。僕は、平田嬢に御対面できたこと故、そのご威光により自らの体を病魔に害することなぞ、よもやありますまいとの意の返辞を述べつつも、謹んで健康に留意することを心に誓うのであった。

 それにしても平田嬢の、なんと全てが慈愛に満ち溢れた立ち振舞いであることか。
 僕は「マザーテレサ」などという単語が思い浮かんでくるのを禁じ得なかった。
 きっと生まれながらに人に夢を与えるような道を歩むよう運命づけられているのであろう。こういう人が、ある意味天才、というのであろう。
 僕なぞが平田嬢と同じくらいの年といえば、おそらく浪人していた頃であろう。己の幸せのみを思考し大いに迷っていた。慈愛に満ち溢れるどこでは無く、妄想に満ち溢れていた。エライ違いである。
 きっと僕などの微弱な応援なぞ無くても、平田嬢は十分神に祝福されている。
 僕は成り行き上アイドルなどという単語を用いたが、平田嬢はもう十分立派に完成された女性であり、女優の素養を持っている。
 
 平田嬢の生手の温もりと慈愛の気を受け、体が軽くなり先程からの疲労も癒された心地になった。平田嬢の全体からマイナスイオンが発散されているかのようであった。まさに平田療法で蘇ったようでもあった。
 その場でビデオとサイン入りのパッケージを受け取った。

 モテナイ独身中年は極々短時間であるが至福のサービスを受け、舞い上がったような心地で会場を後にした。
 会場を出る時には男性スタッフ陣の野太い声で背後から「ありやとございやしたーっ!」と声がかかる。
 金を払って整理券(ビデオ)を買い予約をし、そして本番で美女と肌を触れ合う楽しい一時を過ごし、事が済めば、玄関で厳つい男性の挨拶とともに見送られ、スッキリしながら出て行く・・・。
 ん?。この感じに似たような雰囲気、どっかにあったような気がするなあ・・・?。何かに似ているなあ。何だったか今は思い出せないが。何かの店だったような・・・?。今はどうも思い出せんが。

 外では未だ恵まれないモテナイ独身青年達の長い行列が続いていた。結構人気があるようだ。
 しかし、これだけの人数の男性でも、きっと平田嬢は瞬時で癒すことができるに違いない。
 僕も紛れもなく、それで癒された一人であった。まさに「First Touch」で☆☆☆♪♪♪。
 (2003.6.15)

    ●上記レポートを読む場合の推奨BGM
                  STEVIE WONDER:「ISN'T SHE LOVELY」 ("SONGS IN THE KEY OF LIFE"収録)

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