愛読書

風俗編
張形 江戸をんなの性
田中優子著 
河出書房新社
2000円
 いい年した男性がねえ・・・と苦笑されてしまうが、私モテナイ独身男性の類に属する青年は、未だに女性をモデルにした写真集だとか、男性向け成人雑誌の類を購入する機会がある。たまにだよ。たま〜にだからね・・・コホン;

最近はコンビニでもこの類の書籍を販売しているので、遠い本屋へ出向かなくても良い場合もあり便利は便利になった。

 昔はもちろん購入が恥ずかしいので、東海林さだお氏がエッセイで指摘していたが如く真面目な経済書などのお堅い書籍と合わせて購入をしていたが、最近はとうとうそれもせず、割とその類の本のみ堂々と購入してしまうようになった。
特にちょっとマニアックな写真集などは、特定の街の特定の書店にしか置いていないので、まさに購入する時は「不肖、私このエロ本を求めて遠路はるばる息せき切ってやってまいりました!」という感じでレジに向かう、ということに為らざるを得ない状態でもある。

 最近はもうかなり開き直ってきて、例えばコンビニで若いお姉ちゃんがレジをしていると、ドギツイ言葉が表紙を飾っているような、その手の雑誌の表紙を清算時に臆することなく、むしろお姉ちゃんの目につきやすいようあからさまに差し出して、そのお姉ちゃんの反応を伺う、といったことにまでエスカレートしてしまっている。これはある種セクハラでは無いかと言われるかもしれない。

 ところがこちらの期待(?)に反して、お姉ちゃん側の反応は大抵素っ気無い。
ポッと顔を赤らめて、動揺するような無垢なお姉ちゃんはいない。
大抵ほとんど無反応で、事務的に清算しているだけである。
おそらく、こんな輩は沢山いるので慣れてしまっているのであろう。
こういった類いの雑誌も既に全然めずらしくないのであろう。

 もう女性が性的なものにポッと頬を染め恥じらい・・・、なんて風に慎ましやかな抵抗感を示す時代では無くなっているようなのである。
そこらのシャイでモテナイ男性陣に比べたら、女性のほうがよっぽど性に対して堂々と対峙している感すらあるのである。

 そういえば、そんな中以前PLAYBOY誌に記事が載っていた面白い本を購入した。
「張形」という書物。
これは江戸時代の、とある器具「張形」に関して、浮世絵に出てくるそれを集めていろいろと論じているものである。

 もちろん僕は女性の担当するレジで、開き直ってむしろそれを誇示するかのよう堂々と購入した。

 「張形」というのは、ここでは声を大にしては言えないが、江戸時代に女性が自分自身で楽しむため用に開発されたグッズである。何を楽しむかはご想像にお任せする。まあ「張形」の形を見てみれば一目瞭然であるが。「こけし状」という単語でお察しいただければ幸いである。現代では酷似した用具が、バイブルとかイラストレーターというような語句の響きから想起されるような名称で、巷にも流布している。

 本書には現代のヘア解禁状態もなんのそのという感じに、ダイレクトに人間の局部の描かれた浮世絵が多数紹介されていて、それだけでも面白い。
本の帯の謳い文句には「未公開の浮世絵資料を渉猟して、世界に類をみない張形文化の深層に迫る江戸文化論の快著!」とある。

 この本には更にいろいろな感激がある。
まずこの手の用途の女性用器具が江戸時代にもあったのか(しかも結構初期から)というところで一つ感激。

 あと、浮世絵に描かれている「張形」の中に現代の洋モノビデオなどにも出てきそうな、2方に張形が突出している形のもので、一人の女性が腰につけて、もう一人の女性に対して使用する、いわゆるその今の言葉で言うと、あまり声を大にしてはいえぬが、女性同士が愛しあうというか、その・・・(最後の字が「ズ」、最初の字が「レ」、ということだけで申し訳ないがお察し願いたい)、まあそういった人達用と思われるような仕様の器具(「互形」というらしい)も出てきたりで、これにまた一感激。

 更にこの本の著者が女性で、それもPLAYBOY誌掲載のご本人のお写真を拝見させていただくと、これがまた「美人の熟女」である、ということでも一感激。
女性側から、江戸時代の女の性生活はこうであったと、現代の皆さんどうですか?と、堂々と情報を発信しているのである(この田中さんは現大学教授で日本近世文化・アジア比較文化を専攻されているということのようである)。

 ここ最近女性が性を割と普通に話題にしている本を見かける機会が多くなった。
一昔前はそういった類いの本は希少価値でめずらしく、好奇の目で見られがちだったけど、今は書店でもごく普通に見かけるし、もう「当たり前・普通」という時代になってきたのかもしれない。
きっと女性が男性と同じレベルで性を語れるような時代が、いつの間にかやってきたのかもしれない。

 常々疑問に思っていたのだが、今後女性が男性と同じように同じレベルで性をとらえだすと、女性用の風俗産業というものが男性用と同じような状態で、果たして成立してくるのだろうか?
そういえば、その手の類の風俗雑誌は既に女性用というのもある。
ホストクラブなんてのは、もうかなりポピュラーになっている。
まだあまり一般的では無いようだが、女性用のファッションマッサージのようなものもあると聞く。

 江戸時代から女性用の性器具が発達していた日本であるから、近い将来仕事帰りのオネエチャンなどの「ネエネエ、カヨコー、今日池袋にヌキに行かナーイ?」などという会話が、ごく普通になされる日も近いかもしれないではないか。
女性が男性と同じ土俵に進出してくる時代の到来は、いろいろと興味は尽きない。

(2000.7.15)


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