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トイレット博士 (Mに・・・) |
とりいかずよし著
大田出版 1巻より刊行中 1680〜1980円 |
調布のパルコは4FがCD屋で、5Fが本屋である。 その日はCDを見て回った後、帰ろうとしてエスカレーターに乗ろうとしたら、上りのエスカレーターだった。なぜか5Fへ行け、と言っているような気がして「そうか。5Fへ行けってか。」ということで僕は5Fへ向かった。 5Fの本屋へ到着。久しぶりに来たら店内が改装されてきれいになっている。 着いてすぐにマンガコーナーがあるが、特に用事もないので素通りしようと思ったところ、僕はコーナーの奥から、5Fから僕を呼んでいた声の主(コミック)を発見した。 その本の背表紙に大きく書かれており、僕の視界に真っ先に飛び込んできた名前、「トイレット博士」。
僕らの間では「トイレット博士」が一番人気があり、特にトイレット博士の後半に出てきた、登場キャラで結成する「メタクソ団」なるものを、自分達でも作ったりして、誰某がこの役というように真似をして遊んでいたものだった。 最近マンガ業界でも昔の名作の復刻本の刊行があいついで、オールドファンには嬉しい限りだったのであるが、なぜかこの「トイレット博士」だけは、いろいろ事情があったのかもしれぬが、なかなか復刻本が出版されていなかった。僕はもちろん当時の雑誌もコミックもだいぶ昔に処分してしまって、今は読みたくてもトイレット博士が読めない状況にあった。
この「トイレット博士」という作品、題名からご想像できるとおり、下の話ばかり出てくる。 実のところ今回この文章を書いている僕としては、この作品を若い人や他の人に読んでもらおうというつもりは全然無い。実のところお勧めの漫画作品というわけでは無い。
* * * この作品は、作品の質は全然別にして、僕の少年時代の思い出がつまっている、本当に個人的な意義のみのある、せつなくも懐かしい作品なのである。
当時はやっていた天地真理の歌をモチーフにした作品や、少年の恋を扱った作品なんかは、当時の甘酸っぱいせつない思いを蘇えらせてくれる。 * * * そして、この作品にまつわることに関して、もう一つ僕をせつなくすることがらがある。
Mとは小学校5年の時にクラスが一緒になり、おそらく少年ジャンプの話で意気投合し、仲良くなったのだと思う。
そんなMの家が、小学校の卒業を前に、学区外に新築を建て、それまで住んでいた社宅から引っ越すことになった。つまりMは転校することになったのである。 それでもMが転校してからも、Mの新居へは自転車で遊びに行ったりして、しばらくはそれまでとは変わらぬ交友関係を続けた。 やがてそれぞれの中学へ進学。僕は野球部、Mはボート部に入部し、お互いまた新たな世界での生活が始まった。この頃からMとは自然に疎遠になっていった。
そんな中学時代のある日、Mからの確か年賀状か暑中見舞いに、僕の実家の近くの、そしてMがかつて住んでいた近くの港で、ボート部の大会だったか練習だったかがあるので、見に来て欲しいとのことが書かれていた。
そこには久しぶりに見た、ちょっと成長したMの姿があった。
こんなこともあってか、この時の情景は僕の脳裏に、今でもよく焼きついている。今はもう別の世界の人間として、しかしその中で生き生きと活動をしているMの元気な姿・・・ そして結局、これが僕とMとの最後の出会いになった。
それからしばらくたった、ある日、Mの中学のボート部のボートが練習中の川の河口で転覆事故を起こしたというニュースが流れた。おそらく大雨の後か何かで水量が増していたのだろう。
* * * あれからもうだいぶ月日が流れてしまったが、最近感謝しなければいけないと思っているのは、僕は郷里で過ごした頃のことを振返るとき、楽しかった思いでばかりが蘇ってくる、ということである。
今も時々郷愁にかられ、昔を振返ることがあるが、決して後ろ向きなのではなく、あの頃何が一体良かったのか、それについて考えてみることにより、後世の生まれ来る子供たちのために何かできることは無いか、今僕は暗中模索中なのであります。
(2000.3.11) |