Monologue2003-37 (2003.8.24〜2003.8.31)
 「2003.8.31(日)」曇時々晴・女が部屋に来た2

 もう明日から9月だ。
 相変わらず我がモテナイ独身中年の部屋には、ゴキブリ・蚊・空き巣などの無用の輩ばかりが侵入してくる・・・と、思いきや、なんと8月最後の最後になって、女性が訪ねてきてくれた。
 日曜の夜も9時過ぎ、新聞の勧誘ですら、この遅い時間に僕の部屋には来ない。まさに過ぎ行く夏、最後の最後に神がアバンチュールのチャンスを与えてくれたようだ。
 滅多にないことに僕は当然色めき立った。

 女性特有の柔らかく控えめな声で「こんばんわ・・・」と一言述べ、彼女は僕がドアを開けるのを待っていた。
 僕は静かにドアを開けると、そこにはショートカットのスリムな女性が立っていた。
 ”来ちゃった・・・こんな夜遅く、貴方に悪いと思ったんだけど、どうしても会いたくて・・・”、とでも言いたげに、恥ずかしそうに立っていた。
 年齢は、20代後半・・・X 2.5とみた。
 見た目には外人には見えなかったのであるが、彼女がアルファベットの姓名を名乗ったので外人ではないか?とも思われた。それとも、どこかの店で使用している源氏名のようなものなのだろうか?・・・。
 「NHKです」。

 せっかくだったので僕は彼女の積もる話を聞いてあげることにした。
 話を聞いてみると、何か彼女の勤めている場所で制度の改正が有り、普段は僕に関係はないのだが、今月だけは金銭的協力をしてほしい、というような内容の話だった。
 昨今金銭がらみの色恋沙汰で起る殺傷事件などがニュースを賑わす物騒な世相に、何か危なげな話のような匂いもしたが、何がしかの金を払えば即解決する問題ではあるようだった。かつて南多摩地区尾根幹線エリア限定で名を馳せた非他称プレイボーイの僕としても、ここは彼女に協力してあげないわけにはいかないだろうと感じ、彼女の言う額を渡してあげることにした。

 その後彼女は持っていたバッグから書面のようなものを持ち出し、そこにサインするように依頼してきた。
 僕は散々逡巡した揚げ句、ついにそこにサインをしてしまった。
 彼女は僕のサインを見ながら、持っていた別の手帳とそれを見比べ何かを確認していたようだった。
 ふと、彼女の顔が曇った。まだ何か足りなかったのか?・・・。僕は何かを覚悟しなければいけない危険を感じた・・・。
 「あれ?、ここ1号室じゃありません?」。
 彼女の不意の問いかけに、僕は慎重に言葉を選びながら答えた。
 「違います」。
 彼女は先程受け取った僕からの金銭を僕に返すと、すぐにここを去る旨の挨拶をし”貴方の生活を束縛してしまってゴメンサイ。でも気づかなかったの。貴方に別の生活があったことを・・・”とでも言いたげに、恥ずかしそうに去っていった。

 去っていった彼女の残り香を感じながら、静かにドアを閉め、過ぎ行く夏の最後の訪問者を見送りつつ、僕は心の中で呟いた。
 ”部屋間違えたのかよっ!”。
 「2003.8.30(土)」曇・つまりは、空き巣だ

 先日いかにも厄年らしい出来事が発生した。
 入ったところで大して面白くもないと思われる、我が独身中年の部屋のドアポストが壊され、何者かの侵入の形跡があったのである。ドアポストを外すと、中から容易に鍵が開けられてしまう。つまりは・・・空き巣だ(DocomoのCMの清水ゆみちゃん風に)。
 不幸中の幸いで金銭や貴重品の盗難は無かったようだ。僕の部屋の雰囲気に圧倒され、侵入者も長居は無用と感じたのであろうか?。1番盗まれたくなかったエロビデオ達もお蔭様で無事だったようだ。
 警察とアパートの管理人に連絡をした。
 今日ドアの修理にきてもらい、ようやくドアポストは直った。
 とはいえこのままだと、又いつ同じことが発生しないとも限らない。何か空き巣防止用の装置の設置でもしようか思案中なのである。
 それにしても厄年とはいえ、侵入してもらいたいと思うような美女は侵入してこず、ゴキブリだの蚊だの空き巣だのと、無用の者ばかりが侵入してきゃあがる。こんちくしょ。意外に空き巣が美女だったりして。んなこたない。

 ところでビートルズファンには嬉しいニュースが入ってきた。
 「レットイットビー」がDVD化されるそうだ。待ち遠しいわい。
 「2003.8.28(木)」曇時々晴・意外にドラマティック

 自分の過去生から現世までを映画みたいに見ることができたら面白いだろうね。
 今世で何気なく付き合ってる人が「あっ、あの人前世は家族だったんだ!」みたいなことがわかったり。
 前世で悲しい別れ方をしたけど「今世では、ちゃんと会えたよ!」などとちょっと感動したり。
 前世でとてもお世話になった人が、自分の後輩なんかになっていたり。
 何か嫌いなものがあって、前世でその原因となっていた事件を目の当たりにしたり。
 結構自分の平凡な人生でも、過去生からの大きな流れで見てくると、かなりドラマティックかもしれないよ。

 それから過去生があるなら、きっと来世もあるだろうね。
 来世は今世が作ってる。今の生活が来世にいろいろと繋がっていくだろうね。
 ん?、僕?。こんなさえない今世じゃあ未来が無かろうって?。・・・ぐうの音も出ん・・・。
 ま、できれば今世で打ち切りにして、地球は卒業したい気もしないでも無いがな。
 そうなると今世が最終生、つうことになると、確かにこの情けなさのままじゃとても有終の美は飾れんわい。やれやれ。
 「2003.8.27(水)」曇時々晴・驚きがオイシサ

 小さい頃、暑い夏、家に帰るとスイカがあったりする。これが嬉しかったんだよな。
 今大人になって、お蔭様でスイカくらいなら何とか自由に買えるようになった。
 でも今は一人暮らしだから、小さい頃の「帰ったらあった!」という驚きが、今はないんだよな。「冷蔵庫あけたらあった!」とか。そういうのが無い。あの「驚き」もオイシサなんだよね。
 便所あけたらゴキブリいた!、なんてのはあるけどな。全然、オイシかねえよ。
 「2003.8.26(火)」晴・幻の道

 最近晴れた休日に出かけることができなかったので、夜仕事終わりにブラブラ散策をしている。
 大抵は旧鎌倉街道を歩いている。
 旧鎌倉街道といってもあまり御存じない方が大半だろう。無理も無い。
 僕自身が良く歩くのは、旧鎌倉街道の中道(なかつみち)というルートだ。実のところ、この道は現在公式的に旧鎌倉街道と銘打たれているわけでもない。ちゃんと道が残っているわけでも無い。あくまでも昔あったであろうと考えられる場所、というのが大部分の旧鎌倉街道の中道の実体だ。
 つまり「幻の街道」なのである。

 僕はこの「幻の街道」という言葉で、グッと来てしまった。「新体操の小森未来のヌード」という言葉くらいグッと来てしまった。

 元来僕は街道にトキメキやすいようだ。カワイイネエチャンのパンチラ遭遇時に匹敵するくらいトキメク。
 街道の良い所は、細く曲がりくねって長く続いているところだ。
 これをずっと歩いていくと、どこか遠くに辿りつける、そんな旅への憧れが僕の意識を高めてくれる。

 いつもは旧鎌倉街道の部分部分を断続的に歩いているだけだ。
 一度時間を取って、東京の端から端まで旧鎌倉街道を自転車で走ってみたい。旧鎌倉街道の跡を辿っていくと、大部分、車を気にせずに多摩川から都心を抜けて荒川を渡り埼玉へ、ノンビリとサイクリングができるはずだ。途中途切れる箇所が多いけどね。
 「2003.8.25(月)」晴・6万年

 火星が6万年ぶりに大接近するらしいね。僕も昔火星には良く飲み会に行ってたから懐かしいよ。よくつぶれたなあ、火星では。ん?何寝とぼけてんだって?。ははは。
 地球と火星は同じ太陽系で、いわば兄弟みたいなもんなのに、接近するのが6万年っていう長い、インターバルなんだよな。地球と火星でさえ6万年だから、僕と運命の女性と接近遭遇するのに、40年ていうインターバルがかかってるのも無理は無いな、うん。ん?、そういう問題じゃないって?。ははは。
 「2003.8.24(日)」晴・生あっぷる

 リンゴをかじると歯ぐきから血が出ませんか?・・・なんていうCMが大昔あったんですな。
 これ知ってる人はオッサンか。最近は敢えてリンゴを生でかじるなんてこと、ほとんどしてねえな。一人暮らしの不精さよな。

 ところが今日は生リンゴかじりました。場所は渋谷公会堂。初生リンゴ。椎名林檎。
 ラッキーなことに妹がチケット取ってくれてたので、棚からボタモチです。
 席は二階なんだけど、端の1番前で、オペラの貴賓席みたいな所、落ち着いて見れたし、かなり良い場所だった。
 演者は皆和服で、しかも皆歌舞伎ヨロシク、名前に屋号なんか付けて、江戸というのか明治大正テイストというのか、そんな感じのステージだった。でも全体的な印象は、やっぱロックな人だな、というとこ。ロックに変貌した「カーニバルの朝」を着物で歌ったり、ヘビーなリズムの美空ひばりが出たり、一種異様な様は、この人ならでは。最初静かに出て、途中でバーンとなる所なんざ、まぎれもなくロック。
 林檎嬢はシャイだけど大胆なお嬢様という感じで、トークは極めて少なかったけど、たまに観客のリアクションに答えたりして、意外にアットホームな雰囲気だった。曲の間奏で、林檎嬢がしずしずと後ろに下がり、後ろを向いてコッソリペットボトルの水を飲んでたりする様は、ユーモラスでもあった。頻繁にやってた。

 曲は代表曲を意外に沢山やって、スタンダードなメニューだった。
 アンコールでは、今までと打って変わって、洋風の、でもちょっとレトロなファッションになって、スタンダードのカヴァー「Mr.wonderful」なんかを歌ってた。最後にやった「おだいじに」は、最新アルバムの曲で、僕も最近ウォークマンで良く聴いてる曲。なぜか懐かしいような感じのする曲。

 最近見たモー娘のコンサートと比べると、とっても粗削りな感じはしたんだけど、その分ファンとの距離が、近い感じがした。モー娘の方はやってるのは子供なんだけど、コンサート自体はショービジネスとして確立されてて、洗練されて完成度が高い分、所謂器楽を演奏するバンドやグループとしてのライブ感、ていうのは希薄。要するにショーとライブの違いってとこかな。
 椎名林檎は勿論モー娘と比べたら大人なんだけど、コンサートの印象は、なぜか新進気鋭のバンドのライブって感じを受けた。例えばモー娘だったらMCまでも台本みたいなのがあって、更に「アリーナのみんなー!、スタンドのみんなー!、元気ー!」みたいなのがあるけど、林檎嬢はそういうのは無し。MCでもちょっと挨拶して、言うに事欠くと「次」って言って次の曲になる。でもたまに観客に答えてステージでターンしたりと、かなりシャイだけど女の子らしい優しさを受けて、曲の印象そのまま。
 一口にコンサートといっても、やってる演者の個性が色濃く出て全然印象が違うのは面白かったよ。
 まさにまだちょっと青みがあって甘酸っぱい懐かしいような林檎をかじった感じ。
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