Monologue2001-29 (2001.5.11〜2001.5.13)

「2001.5.13(日)」晴・独り言かよっ!

 電車の中では大抵見知らぬ他人同士が集まっている。
 もちろん中には知り合い同士が乗っているということだってある。
 親子などの家族・友人同士・恋人同士などというグループもあろう。
 一人で乗っているもの同士はお互い他人だから、銘々自分のすべきことをしている。
 ボーッとするもの、読書するもの、車窓を眺めるもの、寝るもの、僕のように音楽を聴いているものなど種々様々である。

 さて、今日の電車の中での出来事であるが、僕は吊り革に捉まっていて、僕の前には女性が三人程座っていて、内訳は中年婦人が二人と若い女性一人であったが、どうやらお互い他人同士のようであり、銘々勝手なことをしていたようであった。

 10分ほど乗り、終点の一つ前の駅に着こうとしていた時、突然その婦人の一人が独り言を喋り出した。
 その婦人はそれまでは何をするでも無くボーッとしていたようであったが、もうすぐ終点という時に、どうしたわけか突然喋り出したのである。
 僕を含め、回りの客もハッとしたようである。
 
 一人客は読書したり、寝たりということはあるが、普通の人間で、独り言、というのは周囲の誤解を受ける為、そう滅多には見かけられない。
 思わず呟いてしまう独り言なら考えられ得るが、この婦人のは、独り言といっても、かなりハッキリした発言だったので、むしろ突然オカシクなってしまったのでは?と思われそうな事態であった。

 良く携帯電話で話を始めて独り言のように誤解されるということはあるが、その婦人はそうでは無かった。
 周辺には電話の影も形も無い。
 婦人の風貌は至ってまともで、良く見かけるヨッパライオジサンの類いの人でも無さそうである。

 僕は、最近じゃ普通の人間でも突然オカシクなってしまっても不思議は無いしなあ・・・などと思わず凝視してしまった。
 周りの人も、僕と同じように、これはオカシナ類いの人か?と思ったようであった。
 僕の前の、もう一人の婦人なぞビックリして、その婦人の方を振り返り、まざまざとその婦人を見ていた。

 ところが、次の瞬間である。
 そのオカシイと思われた婦人の脇に、手すりに凭れて立っていた少女がいたのであるが、その少女までもが、突然伝染するかの如く、独り言を始めたのである。
 奇病、独り言症候群の発生なのかっ!!地球も終わりなのかっ!!

 「うーん?ナンチャラカンチャラ(良く聞き取れなかった)のことー?」
 やや面倒臭げな少女の発言を善く善く聞いてみると、オカシナ婦人の会話の内容を引き継いでいる。

 そう、どうやらこの二人のペアが、親子だったらしいのである。
 僕を含め、回りの客も、この少女の発言を聞くに及び、ようやく事態を察し安心したようであった。
 おそらく僕を含め、回りの客も「親子かよッ!!」と、さまあ〜ず三村氏風にツッコミたかったに違いない。
 程なくこの親子の間では至って普通の会話が通常になされ始めたようであった。

 普通知り合い同士だったら、何となく知り合いオーラが漂っているが、この二人、僕の乗車時から全く知り合いオーラが無かった。お互い別々の方向を見つめ、何か物憂げでもあった。
 この会話が無かったら、お互い他人だと思われても全くわからなかったことと思う。
 少なくとも僕を含め、その回りの客は、そう思っていたようであった。

 まあでも、こんなことを指摘した所で、この親子にとっては大きなお世話ってなところでしょうな。
 あっ、いかんいかん、又々下らぬことでページを埋めてしまった・・・、ま、いいか。
 ちなみに今日は鎌倉街道散策・埼玉高速線乗車をしたのであるが、この件のお蔭で又書き切れんな、これじゃ・・・というわけで街道散策日記は、まとめて又いつの日にか、ということで。

「2001.5.12(土)」晴・擬似VIP感

 出し抜けに何を言い出すか、このオタンコナスと思われそうだが、僕が意外に気持ち良いと思うことの一つに「行列の横を通り過ぎる」ということがある。
 この場合行列は長ければ長い程良い。

 数人の行列では、さしてその熱狂的感覚を味わうことは難しい。
 それに数人だと、それは果たして行列なのか?という問題からとりかからなければいけなくなる。
 従って行列は長ければ長い程良い。

 映画館や混んでいる遊園地などのスポットに行き行列が出来ている所で、その脇を意味も無く辿るように歩いてみよう。
 歩きながら「何だ何だこの並びは?・・・」などと、ちょっと訝しげに行列を眺めつつ、時には「この忙しいのにご苦労さん」などという、天皇陛下ご視察的感覚で横をすり抜けてみよう。

 こんな時にモテナイ独身エトランゼ(僕のこと)は根拠の無い優越感と、行列に直接関係していないという、さして意味も無い解放感を満喫することができるのである。
 しかしカワイイアイドルのサイン会の類いであると「あっシマッタ、オレも並びゃ良かった」的後悔も無いことも無い。

 行列に関係無い場合も良いが、行列に関係のある場合に行列の横を通り過ぎるのは、もっと更なる快感がある。
 例えば既に場所や席などが予約済みであるなどという場合などは、行列している横を「君たちスマンネ、僕予約しちゃってるから」という、まさに真の優越感をもって行列を尻目にしながら堂々とすり抜けられる。
 この場合の気持ち良さと言ったら無い。

 以前葛西臨海水族館に行った時、そこでウッカリ免許を落としてしまった。
 幸い水族館からすぐに連絡があり、翌日僕は免許を取りに再び葛西臨海水族館へと向かった。
 時は連休真っ最中、葛西臨海水族館着くと、入り口では長蛇の列が出来ていた。
 僕は入り口チケット売り場で、落とし物を取りに来た旨を告げると、そのまま中に入っていって良いとのことであった。
 折しも入場制限が出るくらいの混み具合の最中、僕は行列の横をヒョイヒョイと通り抜け、奥のスタッフルームらしき部屋に入っていった。
 その時の行列の人達の「この行列を無視し、颯爽と横を通り抜けていく無名のアイツは誰なんだ?」的熱い視線といったら無かった。
 僕は何かVIP待遇のスターにでもなったような錯覚すら覚えた。
 免許も落としてみるもんだな、などと変な実感すら覚えた。
 ちなみにもちろん水族館自体を見ることはできなかったが。
 ちなみに行列側になってしまうと、途端にそれまでの優越感は消え「どうせあたしゃ並ぶしか能がないんすよ」的卑屈感に苛まれる。

 かくしてモテナイ独身エトランゼは「行列横すり抜け時擬似VIP感」で一喜一憂し、真のVIP感は到底味わうことのできない日常を送っているのであった、とさ。

「2001.5.11(金)」曇後晴・低次元の戦い

 とあるコンビニで、今空いているな、と思って入った途端、急に混み出してきた。
 いつもこうなのである。
 何かこうなる星の下に生まれたらしい。
 まあとりあえず、それはもう慣れてきたので、さして気にもならなくなったが、今回の混みの元凶は作業服のようなものを着用したオジサン軍団であった。

 僕はトッと清算を済ませ店を退散しようと考えたが、生憎二つのレジの内一つは、ほんの少し前まで閑散期だった為「レジ停止中」の札が立っており、これはイカンと急いで空きレジに向かった。
 運良くすぐ清算作業にとりかかってもらえたが、案の定僕が並んだと思った、すぐ次の瞬間に、どこから湧いてきたのかと思うほどに、ゾロゾロとオジサン軍団の行列が出来てしまった。

 ここでまるで台本通りのような僕の忌み嫌う不快な事態が発生した。
 僕のすぐ後ろに並んだオジサンが前に出て来て、すかさず自分の買った品物を、僕が清算中にも関らずレジ台の上にぶちまけてきた。
 仮にこのオジサンを「オジサンA」としよう。
 オジサンAは、いかにも早くしろと言わんばかりの横柄なセッカチなオーラを目一杯醸し出して来ていた。

 僕はこの「列のすぐ後ろのヤツ品物ぶちまけ」をされると、無性にカチンとくる。
 まずそのセッカチなずうずうしさもさる事ながら、僕の品物だか後ろの人の物だか、レジの人がわからなくなってしまうでは無いか?と思う。なんでそうしたちょっとしたことが、配慮できないんだろう?大人のくせに、と思ってしまう。
 購入物が大量にあって持ち切れない、というのならわかるが、弁当と飲み物くらいでそんなにあるわけでは無い。
 大人のくせにチョットくらい待テネエノカヨ?と思ってしまう。
 オジサンAは更に品物の横に「ピッタリの勘定」と思われる小銭もぶちまけてきた。
 これは「オレのはこうして勘定もピッタリなんだよ。だからすぐ清算済むから、オレの方を先に済ませろよ」とでも言いたいかのような意思表示ととれた。
 これが僕の神経を逆なでたのは言うまでも無い。
 テメエ、量の問題じゃネエンダヨッ!!、今途中ナンダヨっこっちのが!!このクソオヤジッ!!。

 僕はこの割り込みとも言うべき「列のすぐ後ろのヤツ品物ぶちまけ」をやられた時は、もう素直に立ち位置を横にどくようにしている。
 それもワザと思いっきりどいて、後ろのオジサンがちゃんとセンターに立てるようにしてやる。
 「はい、そんなに置きたいんなら、どうぞ真ん中に立ってのびのびと置いて下さいな。僕は鬱陶しいから横にどいていますので、はい。」というような精一杯の皮肉オーラを醸し出しつつ横に大きくずれる。

 かくしてオジサンAが、自分の番では無いがレジのまん前に立って、僕の清算が終わるのをイライラしながら待ち、僕が横で一人清算終了を待ちつつその行方を監視しているという図が出来上がった。

 一方店側ではレジの渋滞を察知し、店員のオバチャンの「レジお願いしまーっす!!」との悲鳴のような声を聞きつけ隣のレジに急遽店員が馳せ参じ「お待ちのお客様こちらへどうぞ」のかけ声で隣でもようやく清算作業が開始された。
 後ろ方のあぶれていたオジサン連中が、ドッとそちらのレジに流れた。

 僕のすぐ後ろのオジサンAは、なまじレジのセンターに立ってしまい、品物と小銭をレジに置いてしまった手前、この「空いてるレジへの集団移行」の流れに乗ることができず、結局僕が終わるまで待たざるを得ない格好になった。

 隣のレジに並んだオジサン連中は、めいめいそれ程沢山の買い物では無いようなのでスムーズにレジが進行しているようであった。
 片や僕の清算作業は、買いだめの為品物も多く「温め作業」も付加され、割と長引いていた。
 オジサンAは、隣で友人達が次々と清算を終えていくのを横目で睨みつつ、かなりイライラが募ってきているようであった。

 敢えて言えばオジサンAは、隣のレジの一番手になる権利は充分擁していたハズである。
 オジサンAこそが「お待ちのお客様」の筆頭だったのである。
 それがセッカチ故に僕のレジでしでかした馬鹿げた行動の為、みすみすそのチャンスを逸した。
 素直に普通に自分の品物を持ってキチンと順番を待っていれば、僕より早く清算を済ますことができたであろうことは想像に難く無い。
 僕は、ここで申し訳ないが「ザマアミロ」と思ってしまったことは言うまでも無い。
 早く清算を済ませたいと思った際に、わざわざ品物の多い者の次に並んで威圧的なポーズを取ってそれを打開しようというあまりにも原始的な方策をとるのでは無く、隣のレジがすぐ空くだろうと先を読むくらい賢くなれよ、僕より長く生きてるんだから、と思わず言いたいくなった。
 
 こうして僕が最後の品物も袋にいれられ、まさに後チョットで自分の清算が滞り無く終了しつつあるのを確認していた時だった。
 なんとオジサンAは我慢仕切れなかったのか、あろうことか今までぶちまけた品物を全部奇麗に回収し、そのままスライドし隣のレジへ移行してしまったのである。
 僕は、ここで申し訳ないが「あーあ、やると思ったが、とうとうやったか、このオヤジ」と思ってしまったことは言うまでも無い。
 しかし隣のレジもまだ清算客が一人いたので、オジサンAは隣のレジの2番目に並ぶこととなった。
 オジサンAが居た後ろには友人らしきオジサンBがおり、突如謎の移行を遂げた友人に向かって「良いのか?(こっち空いたけど)」らしき言葉を投げかけたのだが、オジサンAは「待ち切れねえよ!!」などと捨て台詞を残してほとんど衝動的な感じでスライドしていった。
 僕のいたレジでは、すぐに繰り上がってオジサンBの番になったが、隣のレジではオジサンAは、又々次の順番待ちになってしまったのである。

 僕は、ここで申し訳ないが「なんて、間抜けなんだ」と思ってしまったことは言うまでも無い。
 一旦僕のいたレジにぶちまけた品物を回収してまで「待ち切れねえ」為にした行為が、更に「待つ」ハメになる結果を生んだのである。
 オジサンAの僕の後ろに付いてからの行動は、ぜーんぶ無駄になった。
 僕は、ここで申し訳ないが「馬鹿じゃねえの」と思ってしまったことは言うまでも無い。
 オジサン一体貴方は「待ち切れ」たのですか?と、問いただしたくなったことは言うまでも無い。
 オジサンAは、このまま勢いでレジに品物を置いたまま半ベソかきながら帰ってしまうのでは無いかと思われる程であった。
 ちなみにオジサンBは真っ当な方らしく清算も何事も無く無事に行われていたようであった。

 かくして小市民の生活必需スポットである、コンビニにおいては、モテナイ独身エトランゼ(僕のこと)とセッカチオジサンとの熾烈な争いが日夜繰り広げられているのであった。

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